6-3.山管理部門

(1)部門概要

(2)メンバー

(3)令和2年度の取り組み概要

新型コロナウイルス禍といった野外活動に制限がかかる状況下での一年であったが、その逆境にも関わらず、本年度も多くの貴重な成果をあげることができた。構成員とその指導学生院生諸氏の活動概要は以下のとおりである。以下、項目ごとの活動概要を示す。

【治山防災】

大澤が、地すべり地における多雪年と少雪年の地下水応答の比較をおこなった。多雪年は春一番のフェーン現象によって融雪が急速に進行することに加え、積雪層内の選択的浸透度が高まっていることから、局所的に大量の水を地盤へ供給し、地すべりの安定度を低下させることがわかった。一方少雪年は、雪と雨が混在した降水形態が多く、融雪がほぼ起こらない厳冬期に地下水変動の頻度が上昇した。本成果を発表した第59回日本地すべり学会研究発表会において、大澤が若手優秀発表賞を受賞した。
 山川が、大規模崩壊多発流域(静岡県大井川水系,滋賀県安曇川水系)における降雨流出特性および大規模崩壊の効率的な発生予測手法開発に関する研究を継続的に行った。研究成果計2件について発表予定(第132回日本森林学会大会、日本地球惑星科学連合2021年大会)である。また、国土交通省の河川砂防技術研究開発公募(受託研究)「土砂災害における空振りの少ない警戒避難情報の開発に関する研究」として、降雨の既往最大値超過を基軸とした革新的な警戒避難情報提供技術の開発(研究代表者:京都大学・小杉賢一朗)に参画した。https://www.mlit.go.jp/river/gijutsu/sabokadai/theme.html

【火山活動による防災免災と緑化事業】

上條が、火山島である伊豆諸島の伊豆大島、三宅島、神津島、青ヶ島でフィールド調査を実施した。特に三宅島では、上條と廣田が、火山荒廃地の土砂災害軽減のための緑化に関する基礎研究を森林総合研究所と共同で行った。具体的には、新工法である東京クレセントロール工法施工地の植生および緑化候補種であるハチジョウススキの光合成特性に関する研究を行った。なお、昨年までのハチジョウススキの研究成果が国際学術雑誌Plantsに掲載された。三宅島の研究成果全般については日本生態学会大会においてシンポジウムが開催される(上條、廣田、田村)。

【森林管理】

興梠が、下流自治体による水道水源林経営の展開過程に関する調査研究を、公益財団法人阪本奨学会助成金(2019年度,コロナ禍により2020年度末まで助成期間延長)および公益信託エスペック地球環境研究・技術基金助成金(2020年度、助成対象者:山岳科学学位プログラム2年・山口広子)により実施した。
 山岳科学学位プログラム1年生の小林が鳥海山のジオパークの研究助成に採択され、鳥海山に分布する高山草原土の調査を行い、地形、植生、土壌の関係性について研究し、その成果の一部を今年3月の日本ペドロジー学会にて発表する予定である。数年に亘って、中国科学院との共同研究で調査を続けていた中国チベットに分布する草原土壌について、その特徴的な土壌表層(マティック表層)の生成、保全について明らかにし、その成果が国際誌CATENAに掲載された。
 山下が昨年度に引き続き、大学院生および岐阜大学と共同で、長野県東信地域におけるシカの分布拡大による農林業被害と対策の状況について調査し、その課題について考察した。その成果の一部(上田市での調査分)は、2021年の地域研究年報にて公表予定である。
 また清野が、森林調査区の継続的な林木集団の成長追跡を行ない、森林動態の把握に取り組んだ。上條の指導学生が、八ヶ岳のカラマツ林の更新伐試験地において、樹上性小型哺乳類の調査を実施した。継続調査の結果、更新伐が小型哺乳類に与える影響が年変化していることが示された。

津田と指導院生の加藤朱音が、カバノキ科カバノキ属3樹種を対象に国内分布域を網羅した集団遺伝学的動態評価を国内外の研究機関との共同研究で行なった。ダケカンバについては、本州中部など分布南方地域では高標高域に自生する南方系統が、低標高には南方系統の後に分布してきたと思われる北方系統が分布し、東北以北の北方地域では、逆のパターンになるという新規性の高いパターンを検出した。津田と指導院生のエゾハルゼミに着目した時空間スケールの集団遺伝学的動態研究では、エゾハルゼミでは西日本集団の方が東日本集団よりも遺伝的多様性が高い点について、最終氷期最盛期には西日本で冷温帯林がより連続的に分布し、東日本では隔離分布していたことが関係していることを明らかにした。

【鳥獣害対策を考慮した森林施業管理】

門脇が、2019年に続いてつくば市宝鏡山麓の水田でヘビ類の種構成と胃内容物を調査した。その結果、シマヘビの生息数の激減とトウキョウダルマガエル等大型のカエル類の検出数が少ないことを確認した。
 上條の指導学生が、島嶼における外来種防除に向けた基礎研究を行った。具体的には佐渡島のヒキガエルとウシガエル、伊豆大島のキョン、三宅島のニホンイタチに関する研究を行った。上條の指導院生の勝田翔が、山桜の保全に関する研究を行い、日本緑化工学会誌に論文が掲載された。

【大型野生動物の保全・管理】

津田と指導学生の小井土凜々子が、ツキノワグマを対象に全国スケールを対象に過去から現在にかけての集団遺伝学的動態と堅果樹種の分布変遷との関係について、全国のツキノワグマは15程度の地域集団に分かれること、地域集団の分化は最終氷期最盛期のブナ、ミズナラなどの分布適地とも関係している可能性が高いことを明らかにした。
シカの分布拡大パターンを高解像度な推定のための遺伝マーカーを福島大学と山形大学などと開発した。

【山岳域でのツーリズム】

呉羽が,日本における山岳ツーリズムの特性とその変化について,ヨーロッパアルプスでの例と比較検討し,滞在期間の長さなどを含めてその一般的な性格を指摘した。また,呉羽が大学院生と共同で,長野県東信地域を事例に山岳地域における自然学校とエコツーリズムとの関係について分析した。
 津田とその指導院生の久保田賢次が、山岳地域における事故および遭難に関するデータの時空間的解析を行ない,道迷い遭難への対処、特定の事故発生地点の情報共有、および「単独登山が卓越する」という認識下での対策の必要性という3点が重要であるでことを明らかにした。

【栃木県南部におけるジュラ紀付加体の地質調査】

鎌田が、栃木県佐野市に分布するジュラ紀付加体において野外踏査などを行い、その層序・構造を検討するとともに採取資料の分析から、火山岩類の起源や海洋性堆積物の堆積年代を特定した。その結果、従来の解釈よりも複雑な層序・構造を明らかになるとともに、ジュラ紀における海洋底海山の付加様式について検討を行った。

【外来生物管理】

津田が産業管理外来種ブラウントラウトおよび特定外来生物ブラックバス(オオクチバス、コクチバス)の日本の各地への分布拡大ルート、現在の遺伝的多様性の評価を行なった。また、アライグマの集団遺伝学的研究を行ない、岐阜県・愛知県から分布してきたと考えられる系統が長野県南部まで侵入していることを明らかにした。

(4)業績

査読有 査読無
論文 学術雑誌 12 4 16
紀要等 4 4 8
解説その他 0 2 2
16 10 26
著書 7
学会発表 国際会議 4
国内会議 69
72
一般講演等 6
その他の活動 10

詳細はこちら:「9.MSC教員業績リスト」

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