【筑波実験林】ステーションの方向性と抱負

(2021.02.24.改訂)

1.筑波実験林の目指すところ、目的

当ステーションは、里山のミニチュア的な学内緑地である。このような立地条件や環境の特徴を活用して、里山環境の管理・保全、学内フィールドとしての活用を推進することを目指す。この目的を達成してフィールドステーションとして機能していくために、以下に述べる研究、教育、社会貢献事業を進める。

2.研究

当ステーションは、つくばキャンパス内に位置し、開発が進む学内においても貴重な緑地となっている。また、植物見本園、調整池、薪炭林等の異なる環境がコンパクトに配置された里山のミニチュア的特徴があり、植物見本園には里山に生育する多様な樹木・草本から構成される。「森林学」、「生態学」、「ナチュラルヒストリー」の観点からアプローチし、「植物」、「動物」、「菌類」を主な対象として、里山管理・保全、活用に関する研究推進を目指す。以下の3つの研究課題に重点的に取り組むことを目標とする。

【目標】

➀身近な植物と昆虫・寄生菌類の生物間相互作用の解明

植物見本園には多様な樹木・草本が植栽されているが、それらには特異な植食性昆虫が生息し、同様に多様な植物寄生菌も生息する。このような植物と昆虫・寄生菌との生物間相互作用を解明することを試みる。例えば、樹木に穿孔するキバチ、それを捕食する寄生蜂等の関係や、マツ類とさび病菌類の関係である。

➁里山の外来種管理・希少種保全

世界的にも外来種による生態系・生物多様性、在来種への影響は大きな問題であるが、里山にも外来種が定着しており、里山保全・管理のためには外来種管理は重要である。また、里山にしか生息できない希少種も多数生息する。当実験林にもウシガエル等の外来種が生息するため、これらの基礎的生態解明し、効率的防除法の確立を試みる。一方、希少チョウ類・トンボ類も生息するので、それらの種の基礎的生態を解明して保全に資するよう努める。

➂植物フェノロジー(生物季節学)・産地試験設置による長期観察

地球温暖化により一次生産者である植物への影響が懸念される。本見本園には多様な植物が比較的狭い範囲内に植栽されているため、ほぼ同じ環境下にある複数種の植物を同時に観察することが可能であり、植物フェノロジーには最適である。温暖化等気候変動が植物に及ぼす影響の把握のためタイムラプスカメラ等を活用した植物フェノロジーの長期観察を継続する。また、産地の異なるダケカンバ等を植栽した試験地において、産地ごとの樹木の成長・形質・遺伝的特徴を調べ高標高に生育する樹種への温暖化の影響を解明する。
*➀〜➂の課題に加え、MSC重点研究の1つである「茅場プロジェクト」との連携した研究も検討中である。

【対策】

以上の目標を達成するために、以下の基盤整備・連携を進める。

④フィールドの整備

植物見本園・圃場における樹木・草本の維持、整備、管理、並びに調整池内の水質改善を進め、研究利用時の安全性確保や利便性向上に努める。特に希少種保全のためには、その種の生存に適した環境を維持する等の管理が必須である。試験地には説明用プレートを設置するともに、適宜草刈り等の管理を行い、学内研究フィールド・実験圃場として活用できるよう整備を進める。

⑤学内・学外研究者との連携強化

常駐の筑波実験林教職員だけでは人数が限られるため、研究推進のためには学内教員および学外研究者との協力・連携は欠かせない。【目標】➀、➁、➂にはいずれも学内教員、東大を始めとした他大学教員、海洋研究開発機構等の研究者が関わっていて既に連携も見られる。今後は連携を一層深めて共同研究を進める。

3.教育

年々緑地が減少するつくばキャンパスにおける一定面積の緑地が残る学内の施設として、フィールドを活用した教育プログラムを実現する。すなわち、1)学内の里山的緑地を活かした総合・専門基礎教育、2) 里山に代表される二次的自然の理解、管理、活用ができる専門的実務者、および3) 二次的自然の理解、管理、活用のため主に農学、生物学分野からアプローチする研究者の育成に努める。

【目標】

⑥総合・専門基礎教育および専門教育

【対策】

以上の目標を達成するために、以下の基盤整備を進める。

⑦教育設備の整備

4.社会貢献

つくば市及びその近辺の市町村等の地域住民に対して、学内組織とも連携して筑波実験林にある里山様の環境の資源を生かしたプログラムやイベントを提供する。さらに、既に一般公開している植物見本園では、展示植物の特徴をさらに際立たせて、地域住民の植物観察・学習、憩いの場所に供するように充実させる。

【目標】

⑧筑波大学附属病院とのリワークデイケアプログラム

現代のストレス社会では、心を病んで休職を余儀なくされる方が少なくない。筑波実験林では、附属病院との協同の下、復職を目指した方のためのリワークデイケアプログラムを提供している。現在は生け垣の刈込みや原木へのキノコの植菌等が主なプログラム内容であるが、新たな内容のプログラムの開拓・提言を試る。

⑨筑波大学と連動したイベント開催

筑波大学では全学的に地域住民に対して、科学技術週間キッズユニバーシティ、夏休み自由研究お助け隊等のイベントを開催している。筑波実験林でもこれまで、これらの企画に参加しその一翼を担ってきた。今後もその年の状況に応じて適宜参加するとともに、新たに参加できそうな企画を開拓し参加を検討する。

⑩植物見本園の展示の充実・個性化

植物見本園は既に年中無休で一般公開され、学内教職員及び地域住民に活用されている。学内及び地域住民へのさらなる利用に供するため、展示植物の充実・個性化を図る。すなわち、茨城県内に生育する植物展示の強化や、かつてはどこにでも身近にあったが今や希少種となった草本或いは希少種となりつつある草本の展示を進める。加えて、4-4. 教育で述べた説明プレートの設置・更新、散策しやすい歩道の管理、並びに水辺周辺の整備に努める。

【対策】

以上の目標を達成するために、以下の基盤整備を進める。

⑪附属病院等学内組織との連携

ストレスが増している社会情勢では、心を病み休職する方がさらに増えると予想される。したがって、特に附属病院との連携をさらに強める必要がある。既存のプログラム内容を実行していくのに加えて、新たな魅力あるプログラムを提案して実現可能性を協議する。

⑫全学的企画との連動

施設として単独に活動するのではではなく、全学的企画と連動することは大きなメリットがある。筑波実験林は弱小組織のため人員が限られ、広報活動に十分な時間・労力を割くのは困難である。しかし、全学的企画に連動し、全学ホームページで広報してもらうとことは実験林独自で行うよりも遙かに強力な発信力を得るし、効率的な広報活動となる。これまで参加した企画以外にも新たに参加できそうな企画を探索する。

⑬学外組織との連携

類似した植物園としての機能を有する組織は、筑波大学の近くにある国立科学博物館筑波実験植物園である。この国立科学博物館筑波実験植物園は本筑波実験林より遥かに大きな組織であり、展示植物数、面積、人員等においては全く太刀打ちできない。したがって、筑波実験林の存在価値を出すには独自性を追求して国立科学博物館筑波実験植物園にないものを充実させる。これまで連携がなかったので、連携を試み国立科学博物館筑波実験植物園にはないが本実験林にはあるような植物展示等に強化に努め、補完的関係になれるよう整備を進める。

5.組織運営 人員・施設・予算

以上の研究・教育・社会貢献の各事業の遂行をしていくために、筑波実験林の組織運営に関して以下のことが望まれる。

⑭人員

筑波実験林は、植物見本園・圃場がありその管理・維持のため樹木の整理伐・剪定、草本の刈払いに多くの時間・労力が割かれている。これらの作業を適宜業者に外注して樹木の伐採等を実施しているが、予算も年々減額されている。元々教職員スタッフが少ない中でこのようなフィールドの管理・維持をしながら、研究・教育・社会貢献の各事業の遂行にも携わっている。また、元々事務員は配置されていないので事務作業も技術職員が負っている。したがって、通常業務をこなす上で飽和状態に近い状態であり、人員が減少すればこれまでの業務に支障をきたす。したがって、人員増加は理想だが、最低でも人員の維持に努める必要があり、近い将来定年を迎える技術職員には再任用を促す。また、非常勤職員が通常業務に果たす役割は非常に大きいが、基本的には5年間しか継続勤務ができない。大学の現制度では、同じ職員の任用には最低6ヶ月開けなければならないが、その空白期間は他の職員に大きな負担となるため、現制度変更を求めていく必要がある。
 現在、常駐教員1人が研究・教育・社会貢献の各事業に携わるのはもちろん、林長として当実験林の組織運営を行い、さらには山岳科学センターや学位プログラム・学類等の委員も兼ねる。したがって、研究を始めとした成果をさらに構築していくためには常駐教職員の増員等が望まれる。

⑮施設・設備の改修

植物見本園管理棟の男子トイレには扉がなく小便器が外部から見える状態であり、男子・女子双方の学生にとって不適切な状態である。また、大便器は和式のみしかなく脚が不自由な学生には利用しにくい。女子トイレにも窓はなく湿度も高く快適性に欠ける。よって、トイレ改修は必要であり、学内施設設備経費に予算申請して改修を目指す。

⑯予算

筑波実験林の前身は、「農林技術センター筑波苗畑」であり、各演習林に植栽する苗木養成を主な業務とする施設であった。それ故、設立以来、組織として確固たる研究目標を掲げて取組む伝統・文化はなかった。外部資金獲得には実績が必要であり、そのためには1-2. 研究で述べたように学内・学外研究者との連携を強化して成果を挙げることが前提となる。したがって、当面は成果の構築に努めて外部資金申請をするための基盤整備・準備を行う。

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