【菅平高原実験所】ステーションの方向性と抱負

(2021.2. 改訂)

1. 実験所の目的

当実験所は、世界と協調しつつフィールドを活用した研究教育活動を推進し山岳科学を樹立し、人材育成、山業創生することにより、日本の山岳科学の牽引役となることを目指す。「山岳科学」推進のためのフィールドステーションとして機能していくために、以下に述べる研究、教育、社会貢献事業を進めてこの目的を達成していく。

2. 研究

当実験所は、中部山岳地帯の高原地帯という立地や、優れた自然環境のフィールドを持つことを最大限活用し、山岳科学の研究推進を目指す。このために、フィールドを活かした以下の大きく3つの総合研究課題に取り組む。また3つの課題それぞれの分野を超えた有機的連携を目指す。

【目標】

総合研究課題(1)フィールドICTミュージアム

キーワード:自然史、生物多様性、生態、気象、ICT、withコロナ、教育、文化財、観光、ボランティア、産学連携

背景・目的:実験所構内の草原・森林・渓流・樹木園において生物相や気象・環境のデータを収集・蓄積し、リアル・デジタル両面の情報が高度に集約された「フィールドICTミュージアム」を構築し、国内外の専門的研究者~地域住民・児童に至る全世代に情報公開し、その潜在的価値の発掘・利用を促進する。

データ収集・蓄積:全生物群の生物多様性観測(ATBI:All Taxa Biodiversity Inventory)、気象・土壌・水質等の観測、ドローン・自動カメラ・定期撮影・地上LiDAR等によるフィールドのリアル・デジタル情報について、重点研究1「山岳域における双方向ミラーワールドの構築」と連携しながら収集・蓄積する。基盤情報は努めて長期追跡観測できるよう整備を徹底する。市民ボランティア(ナチュラリスト)、実習参加学生、地域住民のマンパワーを動員できる体制を作り、市町村や県の教育関係者、環境保全研究所、国立科学博物館等との共同体制を整え、学内外・国内外の共同研究者とのリンクを強化する。研究者が、共同利用をしたくなるような「フィールドICTミュージアム」化を実現し、ここを利用することで研究推進に大きなメリットが生じるようにする。

情報共有・発信:観測データのオンライン共有、フィールドの継続的・定期的画像取得、標本・デジタル双方の生物相情報のデータベース化と、それらの位置情報をオンライン地図上で共有する(ikimonGO)等を行い、蓄積されたリアル・デジタル双方の情報発信とリモートアクセスの利便性向上を進める。こうして、国内外の研究者・学生が在宅でもフィールド情報にアクセスして研究・教育に活用できるようにする。
地域還元:研究成果を一般市民・児童にもわかりやすく社会還元して発信し続け、大明神寮を活用した展示やイベントを通じた情報公開を進め、地域の教育・観光との連携により社会貢献する。また他大学との共同研究や産学連携によって微生物相情報の遺伝資源化や地域名産品開発を進め、フィールドの保有する資産の有効活用も進める。

総合研究課題(2)生態系管理と山村振興

キーワード:希少生物保全、獣害対策、集団遺伝、生態、自然史、地誌・地史、中山間地域、経済、観光、SDGs
 盆地域から3000m級のアルプスまで景観の異質性に富む山岳県・長野県にはその地史とも関連し、広域分布種から希少種まで様々な動植物が分布している。またかつては草原も広がっていた地域もあり、現在の地域の生物多様性にも大きく関係してきた。一方、昨今では外来生物や獣害問題なども顕著化している。さらに自生、外来に関わらずこれら生物が観光資源、生物資源にもなっている現状もある。またこれら生物、生態系の今後の分布と気候変動の関連を考慮することも今後の長野県の生態系管理、さらにはそれに関連した山村振興には重要である。
このような人間活動含めて複雑な要因が絡み合う現在の長野県の生態系の管理のためには対象となる野生・外来動植物の集団、種あるいは生態系の現状を精査し、さらに人間社会との関係も考慮して対策を提案することが重要である。またインターネット、SNS等の発達により研究者以外でも関連情報の取得が簡易化したことにより社会の生物多様性、生態系管理、外来種への意識は昨今大きく変化している。特にポスト・コロナ時代を迎え、人間活動の低下により動植物の分布、移動分散が変化するだけでなく、社会の自然への意識も変化すると考えらえる。そのため、アカデミア情報を社会に広く発信するとともに、社会の山岳観光、生物多様性、生態系管理に関する大規模な意識調査を行うことも、これからの時代にはアカデミアと一般社会を結ぶ研究構築に重要なポイントになると考えられる。そこで生物多様性評価、遺伝・ゲノム情報や過去の気候、地質などの解析に、観光・農村研究、社会意識調査までを網羅した研究基盤を構築し、長野県を象に実験所が主体となり長野県環境保全研究所、信州大学、長野大学、環境アセス企業、環境保全NPO、市町村、漁業協同組合、メディアなどの県内機関や森林総合研究所、国立環境研究所、海外研究機関など県内外の幅広いネットワークを駆使した研究を展開する。
 具体的には①獣害にも関係する大型哺乳類(ツキノワグマ、シカ、カモシカなど)、長野県南部で分布を拡げる外来生物アライグマや千曲川など長野県内河川で分布拡大している外来魚(ブラックバス、ブラウントラウト)の分布状況、移動分散も含めた集団遺伝学的評価や聞き取り調査などの農村社会学的研究、②冷温帯~亜高山帯の分布する生物の集団動態評価、③地域の地誌・地史を再現し、スキー場草原・山城・ため池など古くから草原として続く生物多様性ホットスポットにおける希少生物の観測と保全・電気柵設置の提案、④生態系復元のための根子岳笹刈りなど、生態系保全活動のエコ・ツーリズム化、安全な山岳余暇活動の提案などを行う。また①~④は相互に関係している内容なので、これら研究を統合して、実際の生態系管理および山村振興を提案していく。これにより地域の生態系管理や観光資源に関するシンクタンクになることを目指す。さらにこれをモデルケースとして全国への展開も目指す。

総合研究課題(3)菅平湿原の農地-湿原生態系の防減災と持続可能性:

キーワード:砂防、水文、気象、生態、自然史、地形、地誌・地史、農業、農村、農業経済、社会、観光、生態系保全、SDGs

背景・目的:千曲川の支流である神川の最上流部に位置する菅平高原の農地からの土砂流出により、集水域レベルで様々な問題が進んでいる。上流域では、菅平湿原への土砂堆積や、それによる生態系影響や水害が生じる一方で、外部からの定期的な土壌の運搬・供給に依存した循環的・持続的ではない農業システムとなっている。中流域では利水・発電を目的とする菅平ダムに大量の土砂が堆積して貯水容量を圧迫し、その下流の用水路が潤す数千世帯の農地への安定的な水供給に影響を与えている。
実施内容:①背景となる根子岳山麓における土砂発生と水文、②湿原と農地における土砂移動と水位変動、③過去の生物相調査や空中写真を活用した生態系・生物相の変容の解明、④土砂流出防止策、⑤持続的農法に対する支援策、⑥湿原生態系の復元策、⑦菅平湿原の自然の魅力の普及と観光利用、を進める。

連携体制:井川演習林を中心とした重点研究3「流域内の多様な立地における土砂管理に向けた土砂動態のプロセス解明」とも連携し、基礎科学と応用科学、自然科学と社会科学を横断しながら、学内外の様々な研究者、行政、地元自治体および、農業・観光業など様々な立場の地域住民との協働によって進める。

【対策】 以上の目標を達成するために、以下の基盤整備を進める。

(1)研究設備の整備

(2)国際化の推進

3.教育

優れた自然環境に恵まれた遠隔地の施設として、フィールドを活用したユニークな教育プログラムを実現し、1)山岳科学分野における研究推進のリーダーとなるべき研究者、および、2)幅広い山岳に関する理解を踏まえて、山岳環境の管理や山岳資源の活用ができる実践者の育成に努める。またそれらを実現するための教育基盤整備を進める。

【目標】
① 専門教育

② 教育関係共同利用拠点による利用促進

【対策】以上の目標を達成するために、以下の基盤整備を進める。
③ 教育設備の整備
上記のように、近年、実験所の利用学生数は急増しており、教育活動を円滑に推進していくために、以下の設備の整備が必須である。

4. 社会貢献

地元地域(長野県、上田市、菅平高原、須坂市、峰の原高原)の全世代に向けて、1)山岳科学をはじめとする学術情報の発信、および社会教育普及の実践、2)地域の観光資源、産業資源の発掘と地域貢献、3)地域の自然環境保全管理策を提言し実施する。

【目標】
① 地域の生涯教育・社会教育の推進
 ボランティアスタッフ集団、菅平ナチュラリストの会による実験所敷地の一般公開や観察会、ワークショップ、講演会の実施。上田市の生涯教育活動、やまぼうしなどの地元ガイド組織との連携。
② 地域貢献
 地元地域の要望と調和した地域貢献の提案、地元企業との提携、有形登録文化財に指定された実験所の大明神寮の有効利活用。
③ 地域の自然環境の保全・管理
 地元地域の観光資源としての自然環境の保全管理策の提言、関連するイベントや活動の実施。

【対策】以上の目標を達成するために、以下の基盤整備を進める。

④ 地域行政、研究機関等との提携

⑤ 事業推進に必須な人的資源の確保

⑥ 大明神寮の利活用

5. 組織運営 人員・施設・予算

以上の研究・教育・社会貢献の各事業の遂行をしていくために、実験所全体として、組織運営に関する以下の実現が強く望まれる。

① 人員の増員
学内措置などの機会をとらえるとともに、外部大型予算の獲得にも努めて、常駐教職員、事務職員、技術職員の増員に努める。

② 施設・設備の増改築
研究棟C棟の増築計画案、宿泊棟の増改築もしくは新規宿泊棟の計画を進める。

③ 大型予算獲得
上記の増員、増改築を進めるには、大型予算の獲得が必要不可欠である。このために、以下の方策について準備を進めて申請をする。

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