本年度はアドバイザー会議をオンラインで7月3日に開催した。出席者は以下の通りである。
(学外委員)
中静 透 森林研究・整備機構 森林総合研究所長
増澤 武弘 静岡大学 防災総合センター客員教授
東城 幸司 信州大学 副学長(広報、学術情報担当)
(学内委員)
津村 義彦 センター長
石田 健一郎 副センター長
出川 洋介 山理解領域長(菅平高原実験所長)
清野 達之 山管理領域長(八ヶ岳演習林長)
立花 敏 山活用領域長
門脇 正史 筑波実験林長
山川 陽佑 井川演習林長
本会議では筑波大学山岳科学センターの2023年度の活動報告を行い、各委員から様々な意見を頂いた。頂いた意見を十分に取り入れて今後の当センターの活性化や発展のために尽くしていく予定である。以下にその内容を記載(議事メモ)しておく。●印は外部委員からの質問または意見、◎印はその質問への回答である。
1)MSCセンターの全体トピックについて
津村センター長から、資料に基づき説明があり、外部委員から次のとおり、意見があった。
● 教育関係共同利用拠点事業については、山岳科学センター全体として認定されているのか。
◎ センター全体で認定されている。第1期は菅平高原実験所のみだったが、第2期より演習林も含めた形となった。
● 利用人数について、八ヶ岳演習林の利用者数が急増したが何か改造等がなされたのか。
◎ 国立天文台と協定を締結し、相互利用者が増加したことにより、利用者増に繋がった。また、地元の商工会から自転車レースに林内を利用したい旨の依頼があり、レース参加者が利用したため、増加となった。
● 山岳学位プログラムは修士のみの在籍となっているが、卒業生は博士課程へ進むのか。
博士課程へ進む学生は、試験を受けて別の研究室へ行くのか。
◎ 博士課程へ進学する者は全体の2割程度。基本的には指導教員を変えずに研究室に残ることが多い。それ以外の学生は就職している。就職は、山岳関係は2~3割、民間企業や国家公務員等様々な道に就いている。
● 筑波実験林で実施している附属病院と連携した「リワークデイケア」について、非常におもしろい試みだと思うが、医学的な効果についてデータ採取は行っているのか。
◎ 一定の効果が得られているため継続している取組ではあるが、マンパワー不足もあり、データ採取には至っていない。
2)各研究領域のトピック等について
<山理解領域>
出川領域長から、資料に基づき、目標概要等についての説明があった。
<山管理領域>
清野領域長から、資料に基づき、目標概要等についての説明があり、外部委員から次のとおり意見があった。
● 主軸研究の鳥獣害対策において、山梨県・長野県とあったが静岡県が含まれていないのはなぜか。
◎ 静岡県でも被害が多く、八ヶ岳演習林においても鳥獣害対策に取り組んでいるのは承知しているが、プロジェクト企画者の活動範囲の関係により、静岡県まで範囲を広げられない状況である。
<山活用領域>
立花領域長から、資料に基づき、目標概要等についての説明があり、外部委員から次のとおり意見があった。
● “山桜が提供する生態系サービス”の項目について、ソメイヨシノではなく山桜と限定しているが、具体的にはどのような内容か説明して欲しい。
◎ なぜ山桜なのかという点も含め、十分な情報を得られていないため説明が難しい。
● 里地里山の保全活動もあり、最近は山桜の意味を見直されている。研究推進の動きがあるため、今後発展する分野だと思う。
◎ 桜川市で山桜の保全活動を行っており、山桜の分布、更新の研究や、花見客へのアンケート調査を基に住民や来訪者が望む保全方法や活用方法についての考察を論文化した内容である。
● センター内での分野横断的な連携が難しい状況であるとの話があったが、4つのステーションのメンバーが集まり議論する機会は年に数回程度という状況なのか。
◎ センター全体では月に一度運営委員会を開催しているが、運営委員のみの参加であるため、全員ではない。教員同士の研究内容を互いに把握することを目的とした「山岳科学セミナー」を山岳科学学位プログラムにおいて実施していたが、最近は参加者が少ない状況であるため、活発化させたい。
● <山理解>・<山管理>・<山活用>について、「どのような目標を立てて、どのような成果を目指すのか」が見えてこない。HPを閲覧してもそれぞれの目標が掲載されていないため、成果内容を拝見してもバラバラ感が否めない。領域毎に共通した方向性を明確に定めた方が良いのではないか。
◎ 各領域の方向性について、明確に定められるようしっかりと議論していきたい。
3)ステーションのトピック等について
<菅平高原実験所>
出川所長から、資料に基づき説明があり、外部委員から次のとおり意見があった。
● 年次報告書に「文化財」という言葉があるが、何を示しているのか。柿渋とどのような関係があるのか。クラウドファンディングは何に対してのファンディングなのか。
◎ 「大明神寮」のことを示している。実験所構内に現存する木造建造物で登録有形文化財に認定されている。認定された際に策定した活用保全計画を基に、文化庁・筑波大学・上田市で協力して保存・公開・活用に向けて取り組んでいるが、計画を実行に移すための予算獲得のためにクラウドファンディングを計画している。毎年、柿渋を購入し教職員が外壁へ塗装して維持管理を行っている。
● その取り組み自体が社会学的な研究テーマになり得るのではないか。
◎ 社会学や地域コミュニティ論を専門に研究している方に参画していただけることが望ましい。MSC所属の人文地理を専門にしている教員にアドバイスをいただきながら進めていきたい。
<八ヶ岳演習林>
清野林長から、資料に基づき説明があり、外部委員から次のとおり意見があった。
● 国立天文台との協定について、どのような内容でどのような効果・実績があるのか教えて欲しい。
◎ 協定の主な内容は、イベント実施の際に会場を融通しあう等の教育支援や宿泊場所の提供等である。国立天文台の電波望遠鏡を用いた観測は主に冬に実施されるため、演習林利用者が減少する冬の時期にも宿泊利用者が増えることは収入面および施設維持管理の両面において、有意義であると考える。
● 自転車レースの利用依頼は、演習林における特別な条件を理由とした依頼なのか。今後も継続して利用依頼がある見込みか。
◎ 登山道の一部として周知されているエリアであること、また国道141号線から赤岳までショートカットで通れることを理由に依頼があった。今年度も利用依頼がある見込みである。
● モトクロスバイクによるレースやレクリエーションによる森林利用が見直されている。
この機会に演習林の持つ価値についての分析も含めて実施できると良いのではないか。
◎ 今年度も利用依頼があった際には、前向きに検討していきたい。
● 植生トレーニングは今後も継続して行っていくのか。
◎ 昨年実施した植生学会におけるエクスカーションの一環として実施したため、今後行う予定はない。
<井川演習林>
山川林長から、資料に基づき説明があり、外部委員から次のとおり意見があった。
● 実習室と食堂が一緒になっている件について、改善されていないため、即急に検討いただきたい。研究活動も機能的に実施されており実習に適したテーマも多くあるが、実習を進められない状況であるため、環境を整備していただきたい。
◎ 毎年、増設に係る予算要求を提出しているが、学内施設の多くが老朽化しており、なかなか採択されない状況である。引き続き、申請し続けたい。
● 河川流量の観測はどのくらい歴史があるのか。また実験的な設定はされているのか。
◎ 井川エリアでは複数流域で5年程度実施している。河川の合流地点における降雨に対する応答が沢によって異なる点などの研究を進めている。
<筑波実験林>
門脇林長から、資料に基づき説明があった。
4)その他
全体を通した助言を各委員よりいただいた。
●全体的には研究成果もあがっており、連携したプロジェクト予算も獲得できているため良い方向へ向かっていると思われる。「目標」については、改めて整理していただきたい。「目標」とは期限を設け、それまでに何を行うかを示すものであるため、あるいはそれぞれの専門分野を活かしたプロジェクト中心主義で進めるのも一案と思う。各ステーションにおいては新たなトピックも数多くあり、それらを融合的な研究へと進めてプロジェクトとして組み立てていただきたい。山を表号しているセンターとして、「山の日」に合わせたイベント活動なども企画してみてはどうか。また、今後は国際的な山の研究(Mountain Research)への参画も目指して欲しい。人文社会を組み込んだ研究等も含め、国際的な活躍を期待している。
◎山の日協議会と連携して、山の日の行事に協力を行なっている。また国際的なMountain Research Initiative (MRI)で当センターの地球科学の教員が山岳科学学位プログラムなどの紹介を行なっている。今後も引き続き国際的な関係も強化していきたい。
●今後、高標高・高山帯の研究を進めて、若い研究者や学生が研究できるような環境作りを進めて欲しい。井川演習林について、教員1名で業績を上げていくには負担が多すぎるため、増員も検討していただきたい。静岡大学との共同研究も行っているため、今後業績は増えていくと思われる。
◎大学全体でこの10年間に約3割の教員数の削減があった。概算要求などを通じて教員の増加に努めていきたい。