【井川演習林】ステーションの方向性と抱負

2021.02.24.改訂)

1.井川演習林の目指すところ、目的

井川演習林は,南アルプスの山岳自然環境におけるフィールドを活用し,山地保全学および森林生態学を軸とする多様な山岳科学分野の研究教育活動を推進することを目指す。特に,当該研究分野における先端的な研究拠点として機能することを目指す。また,当該地域として,ユネスコエコパーク(生物圏保存地域;生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目的とする)における野生動物の保全管理やリニア中央新幹線事業が自然環境へ及ぼす影響評価・モニタリングなどをはじめとする諸問題を抱えている。これらの地域の諸課題解決に学術研究組織としての貢献を果たすことを目指す。

 

2.研究

上記目的等の達成のため,(1)基盤データの整備,(2)研究ネットワークの構築,(3)共同研究の促進,の三点について下記のようにそれぞれ現在取り組んでいるものを継続・発展させ,また今後の展開を絶えず模索する。今後,山地保全学関連分野(砂防・水文・地形・地質など)を特に重点分野と位置付ける。これらによって,幅広く関連分野の研究推進のための有用なフィールドステーションとしての機能拡充を図る。この中で,特にMSC内での連携を核とした取組みとして,山地上流域から(農耕地などを含む)下流域にかけての一貫した水・土砂の流出やその管理に関する研究の促進を図る。

1)基盤データ整備

l  気象データの整備:観測機器の更新を適宜行いながら継続して実施しており,メンテナンス面でより効率的な観測箇所への移設を順次進めている。

l  森林管理施業履歴:引き続きデジタルデータとして管理を行う。

l  植物,動物標本の管理および整備:空調付きの標本庫を活用し継続して実施する。

l  河川流量の経時観測:演習林の流域本川において継続的に実施している。また,より効率的・高精度な時系列データの観測方法を計画・試行中である。

l  UAV(ドローン)を用いた土砂動態データ整備:演習林内の河道の一部区域において時系列データの取得を行うなど手法構築も併せて進めている。

l  演習林周辺の地質データの整備:過去の文献などからデジタルデータベース化することを計画している。

2)研究ネットワーク構築

l  森林生態学分野については,山岳科学センター内での継続的な協力・連携を行っていくほか,日本長期生態学研究ネットワーク(JaLTER)(20205月にコアサイトとして登録承認を受けた)および国際長期生態学研究ネットワーク(ILTER)との連携を図る。野生動物による獣害対策関係については,静岡県などとの連携を継続的に行う。

l  山地保全学分野については,山岳科学センター内の幅広い分野や本学の流域管理研究室(砂防研究室)との継続的な協力・連携を行っていくとともに,砂防学会(東海支部)や国土交通省(静岡河川事務所)との連携を図る。

3)共同研究

従来,山地流域における大規模崩壊の発生機構解明および発生予測手法の開発に関する研究,土砂・洪水氾濫の発生機構解明および発生予測手法に関する研究,ニホンジカなどの野生動物の保全管理に関する研究を中心とした共同研究を継続的に行っている。これらを継続・発展させるとともに,今後,特にMSC内での山岳に関わる幅広い分野との連携を核とした流域を一貫した水・土砂管理に関する研究促進を図る。

 

3.教育

下記の実績のような各実習(学内/教育関係共同利用拠点(山岳科学センター)/外部利用)の受け入れを継続して行っていく。北海道大学の教育関係共同利用拠点事業(アンブレラ型)については,実習の受け入れに加えて(連携する他大学での開講時に)スタッフの派遣を積極的に行う。また,学内外の学生の課題研究での利用受け入れおよびその現地サポート等も継続して行っていく。

【令和元年度の実習利用実績】

l  森林生物学実習(生物資源学類)

l  森林流域工学実習(生物資源学類)

l  森林流域工学実習(教育関係共同利用拠点公開実習)

l  全国森林公開実習II(生物資源学類)

【令和元年度の学生研究の利用実績】

l  筑波大学 3 件(修論3

l  静岡大学 1 件(修論1

l  名城大学 2 件(卒研2

 

4.社会貢献・地域連携

下記の実績の通り,主に静岡市の種々の事業に参画し連携を持っている。今後,これまでの連携や上記の研究ネットワーク構築と併せて連携構築を進めていく。

【令和元年度の実績】

l  静岡市井川小中学校(緑の少年団講師,コミュニティスクール委員)

l  静岡市教育委員会(トムソーヤキャンプ講師)

l  井川森林組合(井川森林組合総会)

l  林野庁関東森林管理局(大井川治山事業連絡協議会委員)

 

5.組織運営 人員・施設・予算

1)人的リソースの確保・養成

上述のような研究・教育を担うフィールドステーションの運営には,継続的な人員の確保が要となる。MSCとして現行で取り組んでいる文部科学省・全国教育関係共同利用教育拠点などの大型予算の獲得に努めることが重要となる。また,上述のフィールド科学分野の研究遂行には,現象の実態解明のため,基盤的で継続的な現地観測の実施が必要不可欠である。現地観測運用への学生補助の導入(フィールド教育効果と関連分野への人材輩出においても寄与)や技術職員の学外フィールドステーションや学会等への派遣(事業実施に必要な技能習得のため)を計画している。

2)施設・設備の改修と拡充

長期利用者と学外部研究者による利用がある一方で,研究資材を収納する場所と教育研究向けのスペースがないことがネックとなり利用上の不便が生じている。これらを改善するため,井川演習林事務所の増築と既存部分のリフォームを行なう必要があり,必要性のアピールと予算申請を継続して行っていく。

 

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