当実験所は、世界と協調しつつフィールドを活用した研究教育活動を推進し山岳科学を樹立し、人材育成、山業創生することにより、日本の山岳科学の牽引役となることを目指す。「山岳科学」推進のためのフィールドステーションとして機能していくために、以下に述べる研究、教育、社会貢献事業を進めてこの目的を達成していく。
当実験所は、中部山岳地帯の高原地帯という立地や、優れた自然環境のフィールドを持つことを最大限活用し、山岳科学の研究推進を目指す。このために、フィールドを活かした以下の大きく3つの総合研究課題に取り組む。また3つの課題それぞれの分野を超えた有機的連携を目指す。
キーワード: 自然史、生物多様性、生態、気象、ICT、withコロナ、教育、文化財、観光、ボランティア、産学連携
背景・目的
実験所構内の草原・森林・渓流・樹木園において生物相や気象・環境のデータを収集・蓄積し、リアル・デジタル両面の情報が高度に集約された「フィールドICTミュージアム」を構築し、国内外の専門的研究者~地域住民・児童に至る全世代に情報公開し、その潜在的価値の発掘・利用を促進する。
データ収集・蓄積
全生物群の生物多様性観測(ATBI:All Taxa Biodiversity Inventory)、気象・土壌・水質等の観測、ドローン・自動カメラ・定期撮影・地上LiDAR等によるフィールドのリアル・デジタル情報について、重点研究1「山岳域における双方向ミラーワールドの構築」と連携しながら収集・蓄積する。基盤情報は努めて長期追跡観測できるよう整備を徹底する。市民ボランティア(ナチュラリスト)、実習参加学生、地域住民のマンパワーを動員できる体制を作り、市町村や県の教育関係者、環境保全研究所、国立科学博物館等との共同体制を整え、学内外・国内外の共同研究者とのリンクを強化する。研究者が、共同利用をしたくなるような「フィールドICTミュージアム」化を実現し、ここを利用することで研究推進に大きなメリットが生じるようにする。
情報共有・発信
観測データのオンライン共有、フィールドの継続的・定期的画像取得、標本・デジタル双方の生物相情報のデータベース化と、それらの位置情報をオンライン地図上で共有する(ikimonGO)等を行い、蓄積されたリアル・デジタル双方の情報発信とリモートアクセスの利便性向上を進める。こうして、国内外の研究者・学生が在宅でもフィールド情報にアクセスして研究・教育に活用できるようにする。 地域還元:研究成果を一般市民・児童にもわかりやすく社会還元して発信し続け、大明神寮を活用した展示やイベントを通じた情報公開を進め、地域の教育・観光との連携により社会貢献する。また他大学との共同研究や産学連携によって微生物相情報の遺伝資源化や地域名産品開発を進め、フィールドの保有する資産の有効活用も進める。
キーワード:希少生物保全、獣害対策、集団遺伝、生態、自然史、地誌・地史、中山間地域、経済、観光、SDGs
盆地域から3000m級のアルプスまで景観の異質性に富む山岳県・長野県にはその地史とも関連し、広域分布種から希少種まで様々な動植物が分布している。またかつては草原も広がっていた地域もあり、現在の地域の生物多様性にも大きく関係してきた。一方、昨今では外来生物や獣害問題なども顕著化している。さらに自生、外来に関わらずこれら生物が観光資源、生物資源にもなっている現状もある。またこれら生物、生態系の今後の分布と気候変動の関連を考慮することも今後の長野県の生態系管理、さらにはそれに関連した山村振興には重要である。 このような人間活動含めて複雑な要因が絡み合う現在の長野県の生態系の管理のためには対象となる野生・外来動植物の集団、種あるいは生態系の現状を精査し、さらに人間社会との関係も考慮して対策を提案することが重要である。またインターネット、SNS等の発達により研究者以外でも関連情報の取得が簡易化したことにより社会の生物多様性、生態系管理、外来種への意識は昨今大きく変化している。特にポスト・コロナ時代を迎え、人間活動の低下により動植物の分布、移動分散が変化するだけでなく、社会の自然への意識も変化すると考えらえる。そのため、アカデミア情報を社会に広く発信するとともに、社会の山岳観光、生物多様性、生態系管理に関する大規模な意識調査を行うことも、これからの時代にはアカデミアと一般社会を結ぶ研究構築に重要なポイントになると考えられる。そこで生物多様性評価、遺伝・ゲノム情報や過去の気候、地質などの解析に、観光・農村研究、社会意識調査までを網羅した研究基盤を構築し、長野県を象に実験所が主体となり長野県環境保全研究所、信州大学、長野大学、環境アセス企業、環境保全NPO、市町村、漁業協同組合、メディアなどの県内機関や森林総合研究所、国立環境研究所、海外研究機関など県内外の幅広いネットワークを駆使した研究を展開する。 具体的には①獣害にも関係する大型哺乳類(ツキノワグマ、シカ、カモシカなど)、長野県南部で分布を拡げる外来生物アライグマや千曲川など長野県内河川で分布拡大している外来魚(ブラックバス、ブラウントラウト)の分布状況、移動分散も含めた集団遺伝学的評価や聞き取り調査などの農村社会学的研究、②冷温帯~亜高山帯の分布する生物の集団動態評価、③地域の地誌・地史を再現し、スキー場草原・山城・ため池など古くから草原として続く生物多様性ホットスポットにおける希少生物の観測と保全・電気柵設置の提案、④生態系復元のための根子岳笹刈りなど、生態系保全活動のエコ・ツーリズム化、安全な山岳余暇活動の提案などを行う。また①~④は相互に関係している内容なので、これら研究を統合して、実際の生態系管理および山村振興を提案していく。これにより地域の生態系管理や観光資源に関するシンクタンクになることを目指す。さらにこれをモデルケースとして全国への展開も目指す。
キーワード:砂防、水文、気象、生態、自然史、地形、地誌・地史、農業、農村、農業経済、社会、観光、生態系保全、SDGs
背景・目的
千曲川の支流である神川の最上流部に位置する菅平高原の農地からの土砂流出により、集水域レベルで様々な問題が進んでいる。上流域では、菅平湿原への土砂堆積や、それによる生態系影響や水害が生じる一方で、外部からの定期的な土壌の運搬・供給に依存した循環的・持続的ではない農業システムとなっている。中流域では利水・発電を目的とする菅平ダムに大量の土砂が堆積して貯水容量を圧迫し、その下流の用水路が潤す数千世帯の農地への安定的な水供給に影響を与えている。 実施内容:①背景となる根子岳山麓における土砂発生と水文、②湿原と農地における土砂移動と水位変動、③過去の生物相調査や空中写真を活用した生態系・生物相の変容の解明、④土砂流出防止策、⑤持続的農法に対する支援策、⑥湿原生態系の復元策、⑦菅平湿原の自然の魅力の普及と観光利用、を進める。
連携体制
井川演習林を中心とした重点研究3「流域内の多様な立地における土砂管理に向けた土砂動態のプロセス解明」とも連携し、基礎科学と応用科学、自然科学と社会科学を横断しながら、学内外の様々な研究者、行政、地元自治体および、農業・観光業など様々な立場の地域住民との協働によって進める。
【対策】
以上の目標を達成するために、以下の基盤整備を進める。 #### (1)研究設備の整備 * 実験所敷地内フィールドの研究利用促進をするため、敷地内の草原や森林のモニタリングシステムを整備する。ツリータワーの整備、維持、管理を進め、研究利用時の安全性の確保、利便性の向上を進める。 * 既存のフィールドに対して、敷地内全域無線LAN、電源等の配備、GIS導入を行い、フィールドICT化を実現し、利便性向上を目指す。 * 日本長期生態学研究ネットワーク(JaLTER)のコアサイトとして、全国的な生態系観測に貢献する。 * 動植物の標本、微生物培養株の保存整備しデータベース発信する。 * 実際のフィールドにおける生のリアルタイム生物情報をフィールドICT化により標本情報と連携させる。 * 実験所独自の資源蓄積と積極的公開の促進。 * 当実験所が保有するフィールド自然環境の潜在的価値を十分に発掘し、世界に向けて発信し、国際的研究利用を推進。
l 国際長期生態学研究ネットワーク(ILTER)、GEO(全球観測)、GBIF (JBIF)(地球規模生物多様性 情報機構日本ノード)などの世界的な生態系・生物多様性観測に参画。
l 海外における類似研究施設との交流を積極的に進め、相互連携協定の締結を推進する等により、国際山岳科学分野の推進を目指した共同研究企画の推進。
l 海外からの学生、ポスドク、研究者などの積極的な受け入れ。
形態学的見地からの生物多様性の理解のため、菅平高原実験所が保有する組織学的研究のための機器設備や電子顕微鏡を存分に活用した他、学生や利用者に技術指導も行なった。これにより、フィールドICTミュージアム構築に向けたデータ蓄積の新しい展開として、デジタルデータ以外にも、標本やその構造から得られる形態情報の活用の可能性検討に繋がった。(藤田研究室)
・外部資金(発酵研大型助成金)を取得し、実験所構内を中心とする菅平高原の菌類相調査を、学生、市民参加により進めた。毎月2~3回の調査を実施し、約1000点近い標本が集積された。助成金は2026年度までで、来年度末に途中成果をまとめる。また、2034年度の100周年までに菌類相および、可能な限り、全生物相の解明を目指す。(出川研究室)
森林生態系管理:
・亜高山帯樹木の分布・環境適応動態の解明に向けたデンドロ・ゲノミクス研究基盤構築(基盤B:2025-2027:津田、出川、浅野ら)(津田研究室)。
気候変動下の森林保全に向けた森林樹木の標高に沿った環境適応および平行進化の解明(JSPS-イタリアCNR二国間共同研究)(津田研究室)。
野生動物管理&生態系管理:
・ニホンジカ(環境研究総合推進費2026-2028)(津田研究室)、ツキノワグマ(基盤B:2025‐2027・津田分担、農学DP・DC2松本拓馬)(津田研究室)、アジアゾウ(JSPS外国人特別研究員:2026年9月~)(津田研究室)。
山村振興:
・上田地域振興局:にぎやかな森プロジェクトに複数参加(田中研究室より津田研究室に引継ぎ)。
・上田地域振興局との野生動物管理情報の地域への情報発信&農林業被害軽減(津田研究室)。
・長野県高山村山田牧場の環境保全と地域活性化。“山田牧場を愛する会”顧問となり、未来に残そう草原の里100選に認定(2025年5月)地域活性化に向けた様々な利害関係者とのプラットフォームの構築(津田研究室)。
・田中健太准教授を中心に、積極的に進められてきた。2024年度までは、水土里会との共催によるシンポジウムの開催、院生の研究テーマとしての研究推進なども盛んにおこなわれてきたが、2025年度は、次項の井川演習林との連携事業以外の点では、残念ながら本目標に関しては、停滞してしまっているのが現状である。一刻も早く、本課題を推進できる後継教員の補充が求められる。
・オオバマルバノホロシの繁殖生態に関する研究(東大・土松隆志研究室)、シカ嗜好性の高い植物の保全遺伝学的研究(山岳DP澤田佳奈の修論研究)に着手(津田研究室)。
【連携体制】井川演習林を中心とした重点研究3「流域内の多様な立地における土砂管理に向けた土砂動態のプロセス解明」と連携し、基礎科学と応用科学、自然科学と社会科学を横断しながら、学内外の様々な研究者、行政、地元自治体および、農業・観光業など様々な立場の地域住民との協働によって進めた。
【国際化の推進】
・実験所全体として、国際長期生態学研究ネットワーク(ILTER)、GEO(全球観測)、GBIF (JBIF)(地球規模生物多様性 情報機構日本ノード:標本データの提供公開促進)などの世界的な生態系・生物多様性観測に参画した。
・JSPS/拠点形成事業/アジア・アフリカBを実施(2022‐2024:後続も検討中)、海外における類似研究施設との交流を積極的に進め、相互連携協定の締結を推進する等により、国際山岳科学分野の推進を目指した共同研究企画を推進した(津田研究室)。
・フィリピン生物系統学協会での招待講演(2025年5月)、JSPS/イタリアCNR二国間共同研究(実施中)、JST次世代ASPIRE(イタリア、フランス、イギリスなど欧州5拠点) >1次審査通過>面接>不採択A(2026年5月に再挑戦)、海外からの学生(JST LOTUSインド:2026)、ポスドク(JSPS外国人特別研究員:2026年9月~)、研究者などの積極的な受け入れをした(津田研究室)。
実験所全体で、計20名の学生を指導した(内訳:学類生3名(生物学類4年2名、研究生1名)、大学院生17名(山岳p9名、生物p5名、農学p3名)。
藤田研究室では、生物学類4年生1名の卒業研究を指導した。
出川研究室では、生物学類4年生1名の卒業研究、研究生1名、山岳科学学位プログラムの院生2名、生物学学位プログラムの院生1名を指導した。( 学振PD1名が研究員として指導協力した。)
田中研究室では、山岳科学学位プログラムの院生4名を指導した。(年度途上、5月に田中准教授逝去のため、その後の学生指導にご協力を賜りました廣田先生、丑丸先生、黒川先生、他多数の先生方に感謝申し上げます)
津田研究室では、山岳科学学位プログラムの院生3名、農学学位プログラムの院生3名、生物学学位プログラムの院生4名を指導した。学振DC2・1名、JST SRPING・A/B型各1名。 JST LOTUSで農学学位プログラム特別研究学生1名をインドから受け入れた。計、留学生2名。
・2025年度に実習で菅平高原実験所を利用した実績は以下の通りである。
・合計24実習が実施された。うちわけは、公開実習14件、延べ757人利用、受託実習10実習、延べ416人利用である。各実習の延べ利用者数を以下に示す。故田中健太准教授が担当されていた森林生態学公開実習(多様性生態学実習/山岳森林生態学実習)は已む無く中止とした。担当者不在のため次年度も公開ができない状態にある。

・実験所全体として、人員不足により、これまで同様の活動を進めるのは困難なため、省力化や縮小を検討している。またスペースの有効活用も進めている。
・技術職員が携わる総合技術室に関しては昨年度ほどの動きは見えないが、生命環境系や下田センターの技術職員らと適宜情報共有している。技術職員が関わるイベントには積極的に参画している。
・敷地外周フェンス沿いの伐採(北側、東側の一部、西側の残り)、実験研究棟のボイラー更新と故障したファンコンベクター(部屋の暖房機)修理、融雪マットの更新、乗用芝刈り機のメンテナンス、宿泊棟スポットクーラーの試験導入、建物全体のセキュリティ向上(鍵の修理等)、敷掛布団の更新、ウルトラミクロトームの修理、顕微鏡の更新などを進めることができた。
・来年度に向けて、敷地外周フェンスの破損部分の修繕について相談を進めている。また「東側の伐採の残り」、「施設管理用トラクターの更新」、「公用車の更新」についても引き続き働きかけていく。
登録有形文化財の大明神寮について、令和7度は、以下の通り、耐震改修設計を実施した。

以下の社会貢献イベントが実施された。詳細についてはセンターの社会貢献欄を参照。
・公開講座「高校生のための菌類学入門」
・まちなかキャンパスうえだ市民向け講座「地域を支える自然史博物館 ~菅平高原自然館の現状と課題」
・構内自然観察会(7月、10月、2月)
・樹木園ガイド
・上田市5大学リレー講座の企画、運営
・まちなかキャンパスうえだの運営
・菅平菌類相調査
・標本整理活動(標本の日)
概要はこちら:「4-3. ステーション利用実績」
計67実習(公開実習:14、受託実習10、その他43) 詳細はこちら
l 菌類分類学野外実習/菌類多様性野外実習
l 高原生態学実習・山岳高原生態学実習
l Laboratory and Field Studies in Biology(陸域生物学実習・動物学野外実習)
l 系統地理学実習
l 高原原生生物学実習
l 生物学特講
l 地誌学野外実験B
l 自然環境調査法
l 山岳微生物学実習
l 野外生物学実習(神戸大学人間発達環境学研究科、国際人間科学部)
l 生態学実験Ⅱ(千葉大学理学部生物学科)
l 地域環境学野外実習(東京都立大学都市環境学部観光科学科)
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区分1 |
区分2 |
査読有 |
査読無 |
計 |
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論文(MSC教職員の内数) |
学術雑誌 |
20(18) |
0(0) |
20(18) |
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紀要等 |
1(0) |
0(0) |
1(0) |
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解説その他 |
0(0) |
1(1) |
1(1) |
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計 |
21(18) |
1(1) |
22(19) |
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著書(MSC教職員の内数) |
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0(0) |
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学会発表(MSC教職員の内数) |
国際会議 |
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5(4) |
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国内会議 |
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38(27) |
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計 |
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43(31) |
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一般講演等* |
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0 |
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その他の活動* |
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2 |
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*MSC教職員のみ
詳細はこちら:「8.MSC教員業績リスト」; 「9.ステーション利用による研究業績リスト(MSC教員外)」