井川演習林の詳細情報
位置・地形
●井川演習林は、赤石山脈の東方にある白根山系のほぼ中央に当たり、東河内沢流域(延長7km)の中流部を占めています。演習林全体で約1700haの流域を形作っているのが特徴の一つです。東河内沢は演習林の中央部を北から南へ流れており、標高の下限は950mです。周囲は演習林の最高標高地点である青薙山(2,406m)から分かれる2,000m前後の尾根に囲まれていて、東側は山梨県との県境をなしています。演習林内の比高差は1400mを超え,標高に沿った植生変化がみられます(演習林内の
標高分布
(PDF 176KB))。平均斜度38〜40度と、ほぼ全域にわたって急傾斜地で、特に東河内の縦侵食によって谷から中腹までの山腹は急峻です。地形の急峻さは全国の演習林・研究施設の中でも有数です。(演習林内の
傾斜分布
(PDF 325KB))。
演習林 |
東経138°13′30″北緯35°20′26″ 標高 1060 m (無岳作業所) 標高最低地点 東河内川沿い 950 m 標高最高地点 青薙山山頂 2406 m |
事務所 | 東経138°13′23″ 北緯35°13′23″標高 755 m |
青ガレ
地質・土壌
●大井川上流域は、中央構造線と糸魚川静岡構造線という日本の2大断層が交差する地域にあり、激しい地殻変動の影響を受けて岩盤は脆く崩れやすい地域となっています。演習林内にも5〜10ha前後の大規模崩壊地が複数あり,そのほかにも深さ1m程度の表層崩壊も多数分布するため,活発な土砂生産が行われています。また,河川においても土石流などの活発な土砂移動現象が高頻度で行われています。そのため,山岳域における土砂移動に関する調査・観測に適した研究サイトであるといえます。地層は白亜紀末(約6千万年前)に形成された四万十層群に属し、砂岩と頁岩の互層がみられる。土壌は褐色森林土とポドゾルが分布している。
総合T地点の気象観測
(気温・湿度・降水量・風向・風速・日射量を計測)
気候
●太平洋側気候帯に属し、標高1,175m地点における1993年〜2002年の10年間で、年平均気温9.0℃、最高・最低気温の平均値はそれぞれ14.6℃、5.1℃、年降水量2,800mm、暖かさの指数67.7、寒さの指数-21.5です。積雪深は20〜40cmと多くはない。 前述したとおり,演習林内では約1400mの比高差があるため,気温は演習林内の地点ごとで大きな差異があります。井川演習林ではこれまで演習林内の多地点で気象観測を行っており,現在そのデータを整理中です。
演習林内の様子
植生
●演習林内は、設立4年後の1966年までに当時の立木利用権者によってほぼ全域にわたって利用可能木が伐採されました。したがって、人工造林地以外も、母樹として残された少数をのぞいて、若齢期から壮齢期(2006年時点で約40年生)の皆伐跡二次林となっています。二次林の面積は1350haに及び,この広大な二次林は井川演習林の特徴のひとつとなっています。標高1,500m〜1,600mまではミズナラ・カエデ類・シデ類・ウダイカンバなどから成る落葉広葉樹林にモミ・ウラジロモミ・ツガなどの針葉樹が混生しています。そこから標高2,000m前後まではコメツガ・シラビソ・ダケカンバ・カエデ類・ミズメなどから成る亜高山帯針広混交林で、さらにその上部はオオシラビソを中心とした亜高山帯針葉樹林にダケカンバ・ナナカマドが混ざっています。伐採跡地のうち土地条件の良好な箇所に1965年(昭和40年)からスギ・ヒノキ・カラマツ・アカマツを主要樹種とする拡大造林を実施してきました(井川演習林の
森林資源構成表
(Excel 79KB))。
演習林事務所
施設
●演習林の管理事務所は、演習林の無岳作業棟から南に13.5kmの静岡市葵区井川字西山平(北緯35度13分3秒,東経138度13分23秒)にあります。1階が事務所と実験室、2階が学生宿泊棟となっており、
24人まで宿泊可能。2002年度に改築され、洗面所・風呂・トイレは男女別の清潔で近代的な設備になっています。2005年度より無線LANによりインターネット接続も可能となりました。事務所から無岳作業棟までは、自動車で1時間弱を要します。
無岳作業所
演習林内のほぼ中央に床面積165平方メートルの無岳作業所があります。自家発電設備と講義室・トイレなどがあり、主に演習林内で行なう実習や作業の拠点として使用しています。
演習林内で車輌が通行できるのは中央部にある林道(治山運搬路)のみで、無岳作業所までと、その数百メートル奥の東河内沢河原までです。その他の場所へは、総延長49.2kmの歩道(作業道)などを利用して歩くことになります。
森林管理計画
●基本方針として、施業の重点化による良質材生産と大井川源流域の原生自然の回復を目指します。演習林の16.7%を占める人工林については、地形や樹種、成長等にもとづいて経営的に見込みのある林分を選択し、長伐期による良質材の生産を目指して計画的に管理します。それ以外の人工林については、獣害(クマハギ)や土壌流出等の調査研究地としての活用を図るとともに、水土保全機能を増進するために必要な場合には間伐等の管理を加えます。一方、77.0%を占める天然林については、成熟した自然林を最終目標として、手を加えずに自然遷移に委ねます。また、井川演習林の大きな特徴であり、面積の6.3%を占める除地(崩壊地・河原)については、調査研究フィールドとしてのいっそうの活用を図ります。
人工林については、保育方針によって3つに区分します。まず、経営的に見込みのある林分を重点育林区(52.12ha)として投資を集中します。植林後80年時点で約400本/haを残すことを目安として計画的に管理します。次に、一部の林分を機能増進区(45.52ha)とし、除伐・間伐等の管理によって積極的に下層植生や有用広葉樹の生育を促進し、水土保全や生物多様性保全といった森林機能の増進を図ります。それ以外の人工林(197.57ha)については、基本的に手入れは行わず、基礎調査を継続しながら、クマハギや土壌流出等の調査研究地として活用を図ります。
天然林については、現時点ではまだ若齢林から壮齢林ですが、樹種に富んでおり、モミ・ウラジロモミ・ツガ・コメツガ・ミズナラ・ブナといった高木類も順調に生育しています。また、特別天然記念物のニホンカモシカをはじめ、ツキノワグマやニホンジカ、イノシシ、クマタカといった野生動物も少なくありません。したがって、成熟した自然林を最終目標として、手を加えずに自然遷移に委ねることにします。
1962年 (昭和37年)12月 |
静岡県安倍郡井川村(現静岡市井川財産区)との70年間の地上権設定契約により東京教育大学農学部附属井川演習林が発足。 |
1971年 (昭和46年)3月 |
静岡市井川字コウノイタ1621-2(0.47ha)を静岡市から購入し、井川演習林管理事務所を置く。 |
1975年 (昭和50年)3月 |
東京教育大学の閉学に伴い、筑波大学へ所属替えされ、筑波大学農技術センター井川演習林となる。 |