山理解部門の今年度の主だった取り組みについて、以下、「アピール項目」、「成果の概要」、「部門への貢献」に関して、分野毎に抄録して紹介する。コロナ禍下の制約がありながらも、今年度は数多くの研究内容がプレスリリースされ、教員、学生の受賞、招待講演等もあり、精力的な研究活動が進められた。
★全体
★植物
★動物
★微生物
[上野 健一]
山間部で発生する雲海のメカニズムを観測により明らかにし、気象衛星で早朝の広域雲海発生域を特定するアルゴリズムを開発した。2022年2月27日の日経新聞にて研究成果が紹介された。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tenki/68/8/68_371/_article/-char/ja
[山中 勤]
山岳流域における降水-河川水間の同位体シフトを10年間の観測データにもとに評価し、その要因が植被率と積雪量にあることを明らかにした。また、温泉中の非天水成分の貯留量が必ずしも有限ではなく、間欠的な補給が存在することを見出した。なお、これに関連して昨年度発表した論文の著者(指導学生)が2021年度日本水文科学会奨励賞を受賞した。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jahs/50/2/50_55/_article/-char/ja/
[八木 勇治]
山岳地域の含む世界中で発生する複雑な地震の震源過程は、断層形状の不確実性に由来するモデリング誤差の影響で、安定な解を求めることが難しい。この問題を解決し、断層形状の情報も取り出すことができるポテンシー密度テンソルインバージョン法の開発を行うと同時に、複雑な震源過程を有するとわかっている地震への適用をおこなった。
[奥脇 亮]
[池田 敦]
5月より休業。休業前まで指導していた院生が,東日本多雪山地亜高山帯に広がる対照的な景観(針葉樹林 or 草本・低木)が山域の斜面傾斜の緩急に強く関連していることを見出した。
[鎌田 祥仁]
現在,関東北部の山岳地域を形成する基盤岩の中には,かつて海洋底にあった海山が含まれている.海洋地殻の沈み込みにより付加した海山と付加する際の海溝付近での堆積環境について検討を行った.周辺の堆積岩類の層序から,海山を構成する玄武岩を含めて堆積岩類が構造的に繰り返していることが明らかになった.
[山川 陽祐]
付加体堆積岩山地において、降雨-流出応答特性が層理面の傾斜構造(受け盤・流れ盤構造)によって強くコントロールされる可能性を、多地点・多時期での河川流量および水質の観測に基づき示した。また、深層崩壊に先立つ重力変形地形の内部構造について、物理探査(地中レーダー・常時微動探査)の適用および地質踏査により、すべり面構造の実態を示唆する結果が得られた。
[浅野 眞希]
[田村 憲司]
★全体
[徳永 幸彦]
山岳科学の人的枠組みの中で、到底達成困難と思われたMirror World構想を、霞ヶ浦のハス田と野鳥の共存という枠組みの中で実現するために、筑波大学、農業研究機構、そして茨城県の産学連携の枠組みによる資金支援を受け、加えて環境研から現場での実機展開のために必要となる防水防塵の技術支援を受け、たった1年という短期間で、害鳥を殺すことなく、ハス田に共存させながら防除するシステム(Virtual Net Zero)の構築に成功した。来年に向けて細やかながら科研費も取得見込みとなり、Mirror World構想を、地道に、しかし着実に具現化している。
★植物
[廣田 充]
冷温帯成熟林の炭素循環を読み解くピースである林床植生(ササ群落)の総一時生産量と土壌呼吸量について、その不均一性の把握と共に生態系スケールでの総量推定を行い、これらを発表した(https://link.springer.com/article/10.1007/s10265-021-01262-y),(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378112721007635)。
[守屋 繁春]
八ヶ岳実験林に改良した樹冠観測装置を3基設置して機器の運用試験と観測を開始した。
[田中 健太]
[川田 清和]
[上條]
伊豆諸島と小笠原諸島を対象として、島嶼生態系における研究、保全活動。教育普及活動を幅広く行った。また、新たに、浅間山火山での研究を開始した。他に、コウモリ類、ニホンヤマネ、ネズミ類と景観との関係、野生絶滅種の保全に関する研究を行った。
★動物
[佐藤 幸恵]
[大橋 一晴]
★微生物
[出川 洋介]
[高島 勇介]
[津田 吉晃]
山から海までを視野に哺乳類、昆虫、魚類など生物横断型で種の分布、遺伝的多様性の観点から山理解を行う研究を展開した。特に生物圏資源科学D2のCham Le氏、岡根先生、山岡先生らとのコーヒーさび菌の分子系統解析を用いて中南米からヴェトナム、さらにヴェトナム国内での分布拡大について議論した論文がFrontiers in Plant Science誌にアクセプトになった(Le et al. 3月:プレスリリース準備中)。これは世界有数のコーヒー生産国(一部は高原地域など)であるヴェトナムにおけるコーヒー栽培における重要知見であり、植物病理学の視点から山理解にも大きく貢献するものである。
[上野 健一]
山岳域で発生する極端降水に関する研究の重要性と衛星による検知に関して2件の国際学会にてオンライン発表を行った。
[山中 勤]
山岳域における水循環の実体を理解するうえで同位体トレーサーは有用なツールだが、その解釈の精度を向上させる知見が得られた。また、山岳域の重要な観光資源でもある温泉に関して、その特異的な涵養-湧出機構が解明されつつある。
[奥脇 亮]
山地形成を司る多様なテクトニクスと複雑な地震発生過程の連関を直接的に理解する新たな知見を得た。また、山岳域にて発生する地すべりを検出するデータ駆動型の新たな地震学的手法を開発した。これらを含むすべての研究成果は、国際テニュアトラック事業を通じた国際共同研究を軸に遂行し、計8報 (受理済み含む) を査読付き国際学術誌にて発表した。
[山川 陽祐]
降雨を外力とする斜面崩壊が選択的な箇所で発生するメカニズムの解明を進める上で、地盤構造と降雨-流出プロセスの実態解明に寄与する成果が得られた。
[池田 敦]
地形量の解析結果を植生史の解釈に援用できる見込みを得た。
[八木 勇治]
山岳地域の形成に関わる、断層の複雑な形状と地震時の断層滑りを推定可能にすることにより、山岳地域における地震現象の理解に貢献した。
[鎌田 祥仁]
山岳地域を形成する基盤岩類の性状や形成年代,記録された環境変化を検討していくことで,山岳地域の基盤岩の理解に貢献した.
[浅野 眞希]
[田村 憲司]
★全体
[徳永 幸彦]
山岳科学の情報ツールとしてのCodiMDの提供など、裏方に徹した活動を行なった。
[津田 吉晃]
生物の動態を個体、集団、種レベルで評価することで山岳生物の在り様の理解に貢献した。
★植物
[津村 義彦]
森林と植物病原菌との関連が気候条件にあることが示唆られた。温暖な地域は病原菌の多様性も高いため植物の防御機構も発達していることが示唆された。また、植物の成長プロセスがツル植物によって大きく異なることを示す結果が得られた。
[田中 健太]
[廣田 充]
[守屋 繁春]
観測装置の運用を通じて森林情報の継続的な取得に向けた試みを開始した。
[上條 隆志]
(1)火山荒廃地における、遷移初期植物3種の生理生態学的特性を明らかにした。(2)氷期の遺存樹種とされるチョウセンゴヨウの分布変遷を化石データと対応付けてその分布変遷を明らかにした。(3)森林性ツル植物の生活史戦略について、林床における待機と林冠への登はんプロセスに着目することで、フジなどが特異的な戦略を有することを明らかにした。(4)植物園の訪花昆虫の付着花粉を調べることによって、セイタカアワダチソウの花粉の付着量が多く、植物園における希少植物の保全に対して負の影響を及ぼす恐れがあることを指摘した。(5)コウモリ類の活動に人工林の皆伐施業が与える影響について、コウモリの超音波を解析することで明らかにした。以上、いずれも指導学生が博士課程または修士課程の研究を修了後に論文発表した内容である。
[川田 清和]
★動物
[大橋 一晴]
山岳域の送粉昆虫マルハナバチが、体表花粉の純度において他の昆虫に勝ること、植物の空間分布によってはこの特徴を失うこと、また密集花序や短い柱頭の進化を促すことを見つけた。このように、花と昆虫の相互作用の理解が深まりつつある。----
[佐藤 幸恵]
山岳地域は重要な生物多様性ホットスポットである。山岳地域に分布するハダニ類を対象とした進化生態学的研究により、山が生物多様性維持に果たす役割にかかわる研究が進展した。
[立花 敏]
1995年に提訴されたオオヒシクイ自然の権利訴訟について、関係者への聞き取り調査や新聞分析、行政資料分析を行い、その経緯や社会に与えた影響を明らかにした。(第133回日日本森林学会大会発表予定)
★微生物
[出川 洋介]
藻類との相互作用を示す共生菌類に関する多様性の理解が促進され、山岳域の生物多様性や生態系の理解に貢献した。
[高島 勇介]
山岳地域に生息する菌類が様々な生物(細胞内共生細菌、藻類、および植物)と生物間相互作用を持つことを示し、山岳地域の生物多様性や生態系の理解に貢献した。
査読有 | 査読無 | 計 | ||
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論文 | 学術雑誌 | 74 | 0 | 74 |
紀要等 | 0 | 0 | 0 | |
解説その他 | 1 | 1 | 2 | |
計 | 75 | 1 | 76 | |
著書 | 4 | |||
学会発表 | 国際会議 | 13 | ||
国内会議 | 91 | |||
計 | 104 | |||
一般講演等 | 22 | |||
その他の活動 | 6 |
(論文 学術雑誌 査読有の中にData Paper1件含む)
詳細はこちら:「9.MSC教員業績リスト」