新型コロナウイルス禍によ活動制限の緩和が進み、山理解目標に向けて、数多くの研究成果をあがった。構成員とその指導学生院生の活動概要は以下のとおりである。以下、項目ごとの活動概要を簡潔に示す。
★今年目立った取り組み
山理解目標の以下の研究成果はプレスリリースもなされ注目を集めた。
・温泉水は水の化石? 温泉に含まれる特異成分から超深層水循環の実態を解明
(https://msc.tsukuba.ac.jp/news20230519/)
・シミ類の中腸は「卵黄細胞由来」〜昆虫類の大繁栄につながる中腸形成様式の変更〜
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20230217140000.pdf
・母親が経験する実効性比はハダニにおける息子の代替繁殖戦術の発現を調節する
(https://msc.tsukuba.ac.jp/news20230901-2/)
・世界最北の島で新種の植物病原菌を発見
(https://msc.tsukuba.ac.jp/news20231108/)
・「左右対称な花は動物による受粉の精度を高める」という定説の誤りを実証
(https://msc.tsukuba.ac.jp/news20230519/)
・森林限界と南限地のダケカンバ苗木の生存率・成長率の低下はメカニズムが異なる
(https://msc.tsukuba.ac.jp/news20231110/)
・クサカゲロウの腸内から新規の酵母を複数種発見
(https://msc.tsukuba.ac.jp/news20231004/)
★今年度の山理解領域としての主要な成果
【地球科学・気候変動】
・中部山岳域における高所アメダスデータおよび菅平での15年間の積雪観測結果から、冬季の天候変動が積雪環境に及ぼす影響を明らかにした(論文2本を執筆)。(上野)
・中央日本における温泉の網羅的調査により、非天水成分を含有する39の温泉を抽出し、それらに含まれる水が、沈み込むプレート由来のものと第三紀海成層中の化石海水であることを明らかにした。(山中)
・付加体堆積岩山地における地質構造が降雨流出プロセスに及ぼす影響を明らかにした。(論文発表;砂防学会誌 https://jsece.or.jp/journal/shinsabo/no370/370_3/ )(山川)
【生物科学・生物多様性】
・植物寄生性ダニであるハダニ類の繁殖戦術について調査した。母親が経験する実効性比はナミハダニにおける息子の繁殖行動に影響与えること、捕食リスクがナミハダニ雄の代替繁殖戦術に影響をあたえることを明らかにした。(佐藤)
・長野県菅平高原およびノルウェー・カナダといった北極ツンドラ地域での植生や地形に対応した真菌類の多様性について調査・発表した(増本)
・「左右対称花は訪花昆虫の姿勢を安定させ送受粉の精度を高める」という18世紀以来の定説を覆す、マルハナバチの室内実験における発見を発表した(大橋)
・亜高山性樹種ダケカンバの南限集団は遺伝的多様性が極めて低く、高標高の集団は極限環境に適応していることを明らかにした(津村)
・日本の本州以南のモミ属4種の集団について遺伝的解析を行い、過去の気候変動に伴う分布変遷で種間雑種を形成して、現在の複雑な遺伝的構造を形成していることを明らかにし、論文発表した(津村)
・節足動物腸内菌類の調査を進め、クサカゲロウが腸内で栽培共生す酵母の3新種を記載し、有性世代(子嚢)の形状に準え、能(謡曲)の「絃上」や平家物語に登場する三面の琵琶(絃上・青山・獅子丸)に因んだ学名を与えて発表した(出川)
★山理解領域への貢献内容
【地球科学・気候変動】
・森林フェノロジーが夜間の冷気涵養に果たす役割に関する観測を、上田盆地に向けた峡谷沿いに展開した。(上野)
・特殊な地質構造を有する中部山岳地域において、かつてない時空間スケールの超深層水循環の理解に貢献した。(山中)
【生物科学・生物多様性】
・節足動物の腸内に生息する糸状菌、酵母の多様性、生態に関する研究を進め報文発表、学会発表をし、日本土壌動物学会を誘致、運営開催し、成果を発表した。(出川)
・北海道および北極地域に生息する真菌類・細菌類の多様性に関する研究発表を行った。(増本)
・菅平高原で開花期が重複する植物3種が送受粉に用いるマルハナバチの体表部位の限定度と、3種間で起こる花粉移動量の関連について野外研究を進め、学会発表を行った。(大橋)
★山理解領域次年度の研究計画
【地球科学・気候変動】
・非定常的に行っている気象観測データの整理・公開を予定する。(上野)
【生物科学・生物多様性】
・菅平高原実験所の生物多様性情報の集約に向けた基盤を整備する。特に菌類については定期調査を開始する(出川)
・本年度行った調査の継続およびそれらのデータをとりまとめ発表する。(増本)
・菅平高原で本年度行った研究の継続に加え、マルハナバチの記憶を介して開花期が重複しない植物種間で起こる相互作用についての研究を開始する。(大橋)
★総括
本年度の以上の山岳科学に関する研究成果は、山理解目標として、山岳の基礎科学的側面の理解に大きく貢献するものであった。今後、山管理目標、山活用目標とも相互に乗り入れて有機的連携をさらに強固なものにして、センタ‐全体として、総合科学的に山岳を理解できるよう様々な努力と工夫を継続していく必要がある。
査読有 | 査読無 | 計 | ||
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論文 | 学術雑誌 | 43 | 8 | 51 |
紀要等 | 0 | 1 | 1 | |
解説その他 | 0 | 3 | 3 | |
計 | 49 | 15 | 64 | |
著書 | 3 | |||
学会発表 | 国際会議 | 11 | ||
国内会議 | 79 | |||
計 | 90 | |||
一般講演等 | 2 | |||
その他の活動 | 2 |
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