出川准教授の研究室では、4月より通年で、月例菌類相調査を、市民ボランティアと立ち上げた。これは2034年に当実験所開設100周年記念事業として全生物群生物多様性目録(ATBI)を発表することを目標として、その準備活動と位置づけている。2025年度からの大型研究費(発酵研)の獲得もそれに弾みをつけた。博士1名・修士4名が良い研究をまとめた。博士1名は学会発表優秀賞、博士論文は研究群長賞表彰を受けた。オランダでの国際学会への参加やワルシャワ大学への訪問によって共同研究・研究交流が進んだ。発酵食品関連で、上田・東御の小学校の出前授業、東御市の柿酢グループの定期検討会立ち上げなど、社会貢献活動が展開している。出演した映画「ウンコと死体の復権」が、文部科学省推薦映画となった。
田中准教授の研究室では、代表者を務める環境研究総合推進費「歴史が生み出す二次的自然のホットスポット:環境価値と保全効果の「見える化」」において、当研究室の研究員1名・学生5名を含む共同チームが当初計画を上回る研究成果を次々と得たことから、中間評価「S」が与えられた。草原の保全・再生について、どのように優先地域を定め、どのような方法で保全・再生するかという研究成果が得られたことで、これを社会実装するためのNPO法人「信州草原再生」の設立につながった。新聞掲載され、今年度の当センターのメディア掲載の中で最も注目されるなど、大きな反響を呼んだ。また、東北大学COI-NEXTネイチャーポジティブ発展社会実現拠点の分担者として、山岳域の生物多様性の追跡と自然再生を行うプロジェクトを今年から開始し、専属の研究員1名が着任した。
津田准教授の研究室では、山岳科学学位プログラム所属の学生1名が口頭発表最優秀発表賞、別の1名が学位プログラムリーダー賞を受けた。JSPS研究拠点形成事業(アジア・アフリカ学術基盤形成型B)「山岳地域における遺伝的多様性データベース構築にむけた先端研究教育拠点の形成」、イタリアとの2国間共同研究(日本側JSPS・イタリア側CNR)の推進およびローマFAO本部の国際山の日担当部署訪問など、国際的な共同を進めた。研究・教育の連携として、筑波・静岡・信州・山梨大学と林野庁関東および中部森林管理局との協定更新を取りまとめた。社会貢献として、高山村・山田牧場の「未来に残したい草原の里100選」への申請に協力している。分野融合型の年輪ゲノミクス研究で、科研費基盤B(当実験所から津田准教授・出川准教授)が2025年度から採択となった。
藤田特任助教・町田客員研究員の研究室では、チビゴキブリ科昆虫、ヤマトシロアリ、原始昆虫類(基部分岐)を対象とした比較発生学的研究を、二つの科研費基盤Cなどによって推進した。原著論文2報、国際会議1報、国内会議2報を発表するとともに、国内外の研究交流を積極的に進めた。このうち町田客員研究員が筆頭となったPNAS掲載論文では六脚類の初期分岐の系統関係「カマアシムシ類-姉妹群仮説」の誤りを指摘し、大きな反響を呼んだ。全昆虫目の発生過程の精述と比較発生学的解説を行う「昆虫発生学」の下巻を上梓して上下巻が完結した。この本は当研究室の2名も監修・執筆しているだけでなく、当実験所出身の多くの研究者が筆頭監修や執筆を務めた。当研究室は2024年度に藤田特任助教が着任して発足したが、早速2025年度からは卒業研究生を迎えることになった。
[野外実習]
2023年5月のコロナの5類化以降に、コロナ前の利用受入数と同程度の水準に戻し、2024年度もそれを維持した。最大収容人数50名、食事提供40名、実習室の座席の制限により1実習あたりの上限32名を推奨。前年度と比べて実習人数が増え、1部屋に宿泊する人数も多くなったが、無事に全実習を終えることができた。
4月に常駐学生に対するガイダンスを実施、生活上の諸注意や利用方法についての周知をはかるとともに、食堂で対面式で歓迎会を復活して実施。菅平ゼミは対面式で実習室にて全員が集まって実施。10月に学生教職員全員にて、防災訓練を実施し消火栓の使い方や放水方法を実習するとともに、菅平高原実験所90周年(昭和9年10月12日設立)を記念して、焼き芋大会を実施。正月年明け1月には「餅食べよう会」を実施。(声:教職員学生皆で楽しく交流しました。学生と教職員が一緒に親睦を深めることができた。楽しかった事は、焼き芋会や忘年会、お餅つきなどのイベントをみんなでワイワイ開催出来た事です。)
[技術職員]
2025年度から技術職員が総合技術室に所属することが決定した。約10年で組織再編を進めて行くことになり、そのための準備が始まった。総合技術研究会に技術職員の山中・金井が実行委員として参加し、盛会に終わった。
北側通用門の交換、窓鍵の修理、網戸の取替、風呂脱衣室扉修理、宿泊棟寝具更新について実現できた。新しい布団は「軽くてとても暖かい」と利用者に好評だった。実験所外周部樹木の伐採計画の立案を進めた。汚水ポンプが故障したが、施設部の迅速な対応で最小限の期間で交換できた。
アレルギー・宗教の食事対応を実現した。氏名と禁忌食物名を明記したシールを作成し、毎食食事に貼ることで誰が見ても分かりやすくなった。
[大明神寮]公開活用に向けた補助金採択。令和6年度は耐震精密診断を実施。今年も、菅平ナチュラリストの会と共同で、柿渋の自作仕込みを実施。3年前に仕込んだ自作柿渋の塗布作業を試行的に二回目の実施。
[ボランティア育成]
実験所のボランティア団体である「菅平ナチュラリストの会」の活動が10年を超え、新規受講生の募集を継続し、世代交代を目指す。
笹川財団の助成金(昨年に続き3年目の採択)によるサポートを受け「一般市民との協働による標本庫APG体系移行と教材用菌類標本整備及び青少年の参加促進に向けた手法開発」を推進した。「標本の日」を月例で実施し、「菅平ナチュラリストの会」のメンバーなどが標本の整理作業を行い、保管標本のGBIF登録を進めるなど、ハーバリウムの整備が推進される体制を確立した。長野県植物誌改訂に向けた植物標本の整備・受入も継続している。
上田市の施設であり、当実験所も設立に尽力した菅平高原自然館が施設老朽化により閉鎖・縮小などの可能性が取り沙汰されている。自治会と当実験所で連携を取って、小中学生・教職員・保護者を菅平高原自然館に招いて当実験所の教職員が説明を行う公開日を設けたり、この問題について考える共催シンポジウムを開催したりするなど、地元との意見交換を通じてともに考える機運を作った。
参照:プレスリリース:開催報告|第9回菅平湿原シンポジウム なぜ大切?地域の自然、地域の博物館 https://msc.tsukuba.ac.jp/news20241118/
概要はこちら:「4-3. ステーション利用実績」
計79実習(公開実習:15、受託実習11、その他53) 詳細はこちら
l 土壌調査法実習・山岳科学土壌調査法実習
l 高原生態学実習・山岳高原生態学実習
l Laboratory and Field Studies in Biology(陸域生物学実習・動物学野外実習)
l 系統地理学実習
l 海山連携公開実習・海山生物学実習
l 高原原生生物学実習
l 生物学特講
l 環境フィールド実習
l 山岳微生物学実習
l 生物寺子屋
l 野外生物学実習(神戸大学人間発達環境学研究科、国際人間科学部)
l 生物多様性生物学演習(東京大学大学院理学研究科生物科学専攻)
l 生態学実験Ⅰ・Ⅱ(千葉大学理学部生物学科)
l 地域環境学野外実習(東京都立大学都市環境学部観光科学科)
l 野外実習(埼玉大学理学部)
区分1 |
区分2 |
査読有 |
査読無 |
計 |
論文(MSC教職員の内数) |
学術雑誌 |
11(10) |
1(1) |
12(11) |
紀要等 |
0(0) |
4(3) |
4(3) |
|
解説その他 |
0(0) |
0(0) |
0(0) |
|
計 |
11(10) |
8(5) |
16(14) |
|
著書(MSC教職員の内数) |
|
7(7) |
||
学会発表(MSC教職員の内数) |
国際会議 |
|
10(10) |
|
国内会議 |
|
62(47) |
||
計 |
|
72(57) |
||
一般講演等* |
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6 |
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その他の活動* |
|
5 |
*MSC教職員のみ
詳細はこちら:「8.MSC教員業績リスト」; 「9.ステーション利用による研究業績リスト(MSC教員外)」