7-1. 菅平高原実験所

(1)場所と施設の概要

(2)メンバー

(3)ステーションの方向性と抱負

(4)令和2年度の活動概要

2020年度は年度初めより新型コロナウイルス感染症という大きな障壁に遭遇したが、早い段階からガイドラインの策定など対策を講じ、職員が一丸となり安全管理の徹底に努め、人数を制限したうえでの学生実習や、外部研究利用者の受け入れを実現し、教育・研究活動を遂行した。実験所勤務の教職員、学生、市民ボランティア(ナチュラリスト)により、研究面では、以下の大きく3つの総合研究課題に関して進展があった。また、実験所運営面では、下記のトピックに示すような実績があった。

総合研究課題(1)フィールドICTミュージアム(山理解的テーマ)

実施内容:全生物群の生物多様性観測(ATBI:All Taxa Biodiversity Inventory)の一環として、国立科学博物館、群馬県立自然史博物館、長野県環境保全研究所等の研究者が来訪し、生物多様性調査を実施、植物、蘚苔類、地衣類、菌類などの標本が収蔵された。特に、長野県植物誌調査会より、正確に種同定された状態の良好な植物標本3800点を受け入れ、植物誌改訂に際するバウチャー保管の責務を負った。また、微生物培養株訳150株を分離収集し凍結保存株として保管するとともに、公的菌株保管施設に寄託した。市民ボランティアスタッフ(ナチュラリスト)によるMy木調査の成果が冊子体として完成し、39種の樹種が紹介された。重点研究1「山岳域における双方向ミラーワールドの構築」と連携しながら気象・土壌・水質等の観測、ドローン・自動カメラ・定期撮影・地上LiDAR等によるフィールドのリアル・デジタル情報が収集された。「フィールドICTミュージアム」化を実現し、ここを利用することで研究推進に大きなメリットが生じるようにする。大明神寮の保存活用計画策定事業が認定され、文化庁の国庫補助事業が採択され、整備に向けた準備が進展した。

総合研究課題(2)生態系管理と山村振興(山管理的テーマ)

実施内容:①獣害にも関係する大型哺乳類(ツキノワグマ、シカ、カモシカなど)、長野県南部で分布を拡げる外来生物アライグマや千曲川など長野県内河川で分布拡大している外来魚(ブラックバス、ブラウントラウト)の分布状況、移動分散も含めた集団遺伝学的評価や聞き取り調査などの農村社会学的研究、②冷温帯~亜高山帯の分布する生物の集団動態評価、③地域の地誌・地史を再現し、スキー場草原・山城・ため池など古くから草原として続く生物多様性ホットスポットにおける希少生物の観測と保全・電気柵設置の提案、④生態系復元のための根子岳笹刈りなど、生態系保全活動のエコ・ツーリズム化、安全な山岳余暇活動の提案などを行った。また①~④は相互に関係している内容なので、これら研究を統合して、実際の生態系管理および山村振興を提案した。これにより地域の生態系管理や観光資源に関するシンクタンクになることを目指した。さらにこれをモデルケースとして全国への展開も目指した。

総合研究課題(3)菅平湿原の農地-湿原生態系の防減災と持続可能性(山管理的テーマ)

実施内容:①背景となる根子岳山麓における土砂発生と水文、②湿原と農地における土砂移動と水位変動、③過去の生物相調査や空中写真を活用した生態系・生物相の変容の解明、④土砂流出防止策、⑤持続的農法に対する支援策、⑥湿原生態系の復元策、⑦菅平湿原の自然の魅力の普及と観光利用、を進めた。井川演習林を中心とした重点研究3「流域内の多様な立地における土砂管理に向けた土砂動態のプロセス解明」と連携し、基礎科学と応用科学、自然科学と社会科学を横断しながら、学内外の様々な研究者、行政、地元自治体および、農業・観光業など様々な立場の地域住民との協働によって進めた。

実験所運営に関する今年度のトピック(教職員の声)

今年度のトピック(職員の声)
新型コロナウイルス禍下の取り組み
・早くからコロナ対策を講じて安全確保に努め、利用者が安心して過ごせるよう感染症対策を講じた環境整備を実現。
・施設利用を中断せずに継続できたことは良かった。
・事務、技術職員、メンバー全員が一丸となってベストメンバーで対応できた。
・当実験所のコロナ対策のガイドライン、ノウハウを1月に群馬県立自然史博物館のポスター発表にて詳しく紹介した。
コロナ禍下での実習開催
・人数は少人数に制限されたが実習受け入れができて本当によかった。
・宿泊棟の各部屋の完全個室利用化の徹底(最大収容人数14名に)。
・試行錯誤をしながら無事に終えられた。
・ガイダンス映像の作成。食堂利用時の徹底消毒。(食洗器の新調が実現して大幅に環境改善を達成)
コロナ禍下でのオンライン化促進
・会議、授業、セミナー、学会等のオンライン化、オンデマンド化が一気に進んだ。
・「筑波大学山岳科学センターチャンネル」を公開できた。ここで、動物分類学野外実習や、致死学教室による市民講座の動画を編集しオンライン発信できた。動画コンテンツの充実化。
・ナチュラリストの会による自然観察会、大学説明会を動画で実施、オンライン発信できた。
・第41回菅平動物学セミナーがZoomでオンライン開催。参加者数はいつもの人数に近い50名質疑にたくさんの時間を掛けることができ、アカデミズムに溢れる、素晴らしいセミナーに。
・遠隔地のハードルは急速に低くなった。これは大変大きな変革である。
実験研究棟2階トイレ改修工事竣工
・工事請負業者がなかなか決まらず、2年越しとなっていたトイレ改修工事が竣工し、長年の懸案事項が解消された。
・研究棟のトイレがとてもきれいで快適になった。
・すごくキレイになり掃除をする身としてこのまま綺麗を保てるよう心掛けたい。
・施設部の方々もMSCに好意的に尽力してくださっていることを実感。
大明神寮
・保存活用計画策定事業(2か年計画)の認定。
・困難と思われていた、文化庁の国庫補助事業が採択。今後の有効活用に一歩道が開けた。
・保存活用計画の策定により、次ステップ(保存修理、設備整備、耐震対策等)の事業費要求を目指す。
・地下通路の撤去作業が完了。柿渋塗は秋に延期し無事完了。
・初めて柿渋塗に参加して職員や学生と交流できた。
・フィールドICTミュージアム拠点として活用計画を検討。
菅平ナチュラリストの会の活動
・来年で10年目を迎える。コロナ禍にもめげずに安全管理をしながら活動を継続。
・ナチュラリストが2年間かけて実施した「My木調査」の成果が編集され、冊子化を達成。印刷中、またPDFをWEB公開の予定。
朝ミーティング
・実験所教職員朝のミーティング開始。
・6月から実験所長、技官、事務職員、(時に教員も)による朝ミーティングを開始。
・毎日、朝9時に事務室に集合し、全員が、当日の業務実施計画、スケジュール、問題点、課題、懸案などを簡潔に述べる。
・これにより共通認識を持つことにより迅速な行動、対処が図れるようになった。
・きめ細やかなコロナ対策に殊更有効であった。
技術職員室の活躍
・初体験のサーバー構築及び移行が間もなく完了。
・フェノロジーデータを整理し、公開できた。(https://www.sugadaira.tsukuba.ac.jp/activity/database.html)
・共同研究論文アクセプト。
学生表彰
・M2加藤朱音さん:第6回山岳科学学術集会優秀発表賞
・M2湯本景将くん:第6回山岳科学学術集会優秀発表賞、研究科長賞、山岳科学学位プログラム長賞
・M2久保田賢次さん:山岳科学学位プログラム修論発表会優秀発表賞、(茗渓会賞推薦中)
・M1小井土凜々子さん:第6回山岳科学学術集会ポスター発表賞
・M1山本裕加さん:第6回山岳科学学術集会ポスター発表賞
学生資金獲得
・M1参輪佳奈さん:公益財団法人日本科学協会笹川科学研究助成学術部門 73万円 
・M1前川直人さん:一般財団法人長野県科学振興会 科学研究費助成金 7万円 
・M1李知彦さん:一般財団法人長野県科学振興会 科学研究費助成金7万円 
国際化
・Pen Kaknikaさん(カンボジア・プノンペン大学)、短期留学生として、2020年11月~2021年10月まで、実験所で受け入れ。
・Sandeep Senさん(インド・アショカ生態学環境研究トラストATREE)が2021年度外国人特別研究員に採択。
クマ騒動
・菅平周辺のクマ捕獲が相次いだ。10頭以上。
・対応は大変であったが、ハンター>上田市>筑波大>長野県環境保全研究所と頭部・歯サンプル収集のネットワークをつくることができた。
・7月の長雨、8月の干ばつによる動植物の動向変化。
・小井戸さんポスター賞受賞
菅平高原実験所2020年度の総括
・コロナ禍で世の中は大きく変革している。
・安全管理体制の維持には、スタッフ人員相互の意思の疎通が肝要。一丸となった体制が必要不可欠。
・オンライン化の急速な促進で、会議や打ち合わせが容易に。授業は更にオンデマンド化により遠隔地の障壁は事実上解消。
・リアル対面式の実習はより重要性を増す。
・安全性を確保さえすれば、教育・研究利用のチャンスは寧ろ格段に増加。遠隔地フィールドが活躍する契機を逃してはならない。夏季春季休業時以外にも実習、授・業を検討してもよいのではないか。

(5)施設利用実績

(5-1)施設利用者数

概要はこちら:「5-3. ステーション利用実績」


(5-2)施設を利用した実習

計39実習(公開実習:0、受託実習:15、その他:24)
詳細はこちら

実習例


(5-3)施設を利用した研究

業績

査読有 査読無
論文(MSC教職員の内数) 学術雑誌 31(28) 2(1) 33(29)
紀要等 1(1) 3(3) 4(4)
解説その他 5(0) 1(1) 6(1)
37(29) 6(5) 43(34)
著書(MSC教職員の内数) 7(6)
学会発表(MSC教職員の内数) 国際会議 4(4)
国内会議 56(50)
60(54)
一般講演等* 11
その他の活動* 9

*MSC教職員のみ

詳細はこちら:「9.MSC教員業績リスト」「10.ステーション利用による研究業績リスト(MSC教員外)」

研究テーマ

【MSC教職員・学生利用】

【学内利用(MSC関係者以外)】

【学外利用】


(5-4)社会貢献活動

概要と詳細はこちら:「5-4.社会貢献活動実績」

Back to Top Page