7-1. 菅平高原実験所

(1)場所と施設の概要

(2)メンバー

(3)ステーションの方向性と抱負

(4)令和3年度の活動概要

2021年度は新メンバーとして4月に竹中將起先生が特任助教として着任され、研究教育面で大いに活躍下さった(3月末日をもって信州大に転出)。前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症への対応に苦心したが、前年度に構築された職員の連携による安全管理対策の徹底により、実習や外部研究利用者の受け入れ等を無事に滞りなく安定感を持って実施することができた。実験所として取り組んだ総合研究課題については以下に示す成果が得られた。また、その他、本年度、実験所の運営で苦労した点、成果等を順に以下に述べる。


【総合研究課題(1)フィールドICTミュージアム(山理解的テーマ)】
実施内容:全生物群の生物多様性観測(ATBI:All Taxa Biodiversity Inventory)の一環として、博物館関係や森林総合研究所などの研究者が来訪し、生物多様性調査を実施、植物、地衣類、菌類などの標本が収蔵された。特に、長野県植物誌調査会より寄贈を受けた植物誌改訂に際するバウチャー植物標本に関しては、S-Netを介してGBIFで公開をし、世界に向けて標本情報を発信した。発酵や古民家に関連したり、草原に生育する多様な微生物培養株を分離収集し凍結保存株として保管するとともに、一部重要な菌株については、公的菌株保管施設に寄託した。50年来継続してきた気象観測が事故により寸断し、観測記録システムの更新を行った。「フィールドICTミュージアム」化に向けて実験所の保有する資源の探索とその公開に向けた一歩として、教育戦略推進プロジェクト事業によって多くの動画、テキスト、ワークシートコンテンツの公開が軌道に乗った。大明神寮の保存活用計画策定委員会が複数回開催され、年度末に計画の策定が完了し、保存活用に向けて大きく進展した。

【総合研究課題(2)生態系管理と山村振興(山管理的テーマ)】
実施内容:①獣害にも関係する大型哺乳類(ツキノワグマ、シカ、カモシカなど)、長野県南部で分布を拡げる外来生物アライグマや千曲川など長野県内河川で分布拡大している外来魚(ブラックバス、ブラウントラウト)の分布状況、移動分散も含めた集団遺伝学的評価や聞き取り調査などの農村社会学的研究、②冷温帯~亜高山帯の分布する生物の集団動態評価、③地域の地誌・地史を再現し、スキー場草原・山城・ため池など古くから草原として続く生物多様性ホットスポットにおける希少生物の観測と保全・電気柵設置の提案、④生態系復元のための根子岳笹刈りなど、生態系保全活動のエコ・ツーリズム化、安全な山岳余暇活動の提案などを行った。また①~④は相互に関係している内容なので、これら研究を統合して、実際の生態系管理および山村振興を提案した。これにより地域の生態系管理や観光資源に関するシンクタンクになることを目指した。さらにこれをモデルケースとして全国への展開も目指した。

【総合研究課題(3)菅平湿原の農地-湿原生態系の防減災と持続可能性(山管理的テーマ)】
実施内容:実施内容:①背景となる根子岳山麓における土砂発生と水文、②湿原と農地における土砂移動と水位変動、③過去の生物相調査や空中写真を活用した生態系・生物相の変容の解明、④土砂流出防止策と持続的農法に対する支援策、⑥湿原生態系の復元策、⑦外来植物防除の地域活動、を進めた。井川演習林を中心とした重点研究3「流域内の多様な立地における土砂管理に向けた土砂動態のプロセス解明」と連携し、グリーンベルト等による農地からの土砂流出抑制効果を実測し、その普及に向けた地域・行政との調整・協議を進めた。

【実験所運営に関する今年度のトピック(教職員の声)】
★新型コロナ対策、コロナ禍下での実習受け入れ継続
・昨年確立した体制で本年度も無事に終えられた。要望のあった実習はほぼ全てを受入れ、全国最大規模で実施することができた。陽性者は皆無であった。7月に、宿泊棟の部屋に仕切りカーテンと喚起ユニットを設置し、個室の増設化工事に関する要望を教育担当副学長に陳情。8月に許可が降り、工事を実施し、個室利用による最大収容人数が14名から20名に増加した。

・予め音声を吹き込んだパワーポイントによる実験所利用に関する諸注意を説明したガイダンス映像が有効活用された。
・食堂利用時には、向かい合わずに黙食、食前食後にテーブルとイスを徹底消毒するなどの対策を実施した。

・実習期間の晴天時には試験的に屋外での昼食提供を実施して好結果を得た。

★朝ミーティング
・前年度より開始した実験所教職員朝のミーティングを継続し、教職員一丸の協力体制が構築された。所長、技術職員、事務職員、(時に教員も)が毎朝9時に事務室に集合し、全員が当日の業務実施計画、スケジュール、問題点、課題、懸案などを簡潔に説明、共有。共通認識を持つことにより、適切な行動、対処が図れるようになり、きめ細やかなコロナ対策にも有効であった。

★大明神寮保存活用計画策定
保存活用計画策定委員会を複数回開催し、年度末に保存活用計画案の策定(2か年の国庫補助事業)が完了した。同計画案に基づき、保存活用事業を推進することになるが、次の課題は、クラウドファンディングも視野に入れた事業費要求である。柿渋塗は秋に無事完了したが、新たな取り組みとして柿渋の自作を試みた。またフィールドICTミュージアム拠点としての活用計画も検討。

★実験廃水の排水設備の改修整備
施設部および環境安全管理室と相談しながら、実験廃水処理を改善する方向に前進した。まだ、懸案課題が残り、来年度も関係部署と相談しながら継続対応していく予定である。7月30日に施設部による現地調査が行われ、排水管改修工事・満水警報盤更新がなされた。1月27日に環境安全管理室長・リスク安全管理課安全管理担当係長らの来訪、打ち合わせを実施。上田市に特定施設届出提出に向けて、最終的な方針を来年度に調整することとなった。

★技術職員室の活躍
・永らく懸案となっていたサーバーの移行が完了した。
・マイクロバスの更新がなされた。
・総合気象計測機器の断線による故障と緊急対応、修理がなされた(11月12日、排水管工事の際に、測器電源を工事業者が誤って切断し、50年近く継続観測していたデータが途切れた。緊急対応をしつつ、修理を進め、12月23日20:00より計測を再開した。)。
・植物標本がS-netおよびGBIFへ新たに2400点登録され、昆虫標本室の整理が行われ、標本室の充実化が進展した。
・夏休み自由研究お助け隊2021に参加協力し、イベント準備を通して、他の部署の技術職員とも交流がはかられ、イベントの報告会や技術職員交流会分科会等にも参加した。
・林冠タワーにスズメバチが営巣し、ワイヤー張替え作業中の業者が刺されたため、駆除作業を実施した。
・永らく雑然となっていた研究棟1階ガレージ内にポール等を収納するラックを作成した。

・降雪日が多く例年になく除雪作業に大変苦労した(3月9日現在、約15回実施)。

★菅平ナチュラリストの会(ボランティアメンバー)の活躍
・10周年記念活動はコロナのため延期となった。技術職員の協力を得て動画「夏の自然観察会」を制作した(コロナ禍のため、自然観察会を体験できるような動画を制作。再生回数は約500回でなかなか好評。40分という長さながら上田ケーブルビジョンでそのまま繰り返し放送)。新規追加募集を来年度より開始することとなった。
https://msc.tsukuba.ac.jp/news20210817_3/

★学生・研究員の受賞・資金獲得等
・小井土凛々子さん:第7回山岳科学学術集会優秀口頭発表賞、 山岳科学学位プログラムリーダー賞、茗渓会賞
・坂本浩輝さん:第7回山岳科学学術集会優秀口頭発表賞
・海野太一さん:第7回山岳科学学術集会優秀ポスター発表賞
・高島勇介研究員:日本菌学会奨励賞
https://msc.tsukuba.ac.jp/news20210906/
、 Microbes and Environments誌 2020年度 選考委員会特別賞
・湯本景将さん:学振DC2、次世代研究者挑戦的研究プログラム採択
・吉橋佑馬さん:次世代研究者挑戦的研究プログラム採択
・津田研はJSPSの3つの若手研究者育成関連事業の特別研究員(高島君)、外国人特別研究(Sandeepさん)、DC2(湯本君)の3種を全て制覇した。

★政策への貢献・大型資金獲得
・高山村、(株)環境アセスメントセンターの受託研究・事業の対応を行い、県~村レベルで即応用されるような山岳科学研究を遂行した。高山村は山田牧場のにぎわいの場という地域観光構想に関わらず植生、遺伝的多様性調査環境アセスメントセンターの受託事業は長野県からの委託で、成果は長野県第二種特定鳥獣管理計画 (第5期ツキノワグマ保護管理案) の策定に活用。(津田)
研究拠点形成事業-B.アジア・アフリカ学術基盤形成型-の採択 (津田)

★訃報
・菅平高原実験センターにて助教・特任助教を歴任され、運営にも大きな貢献をされた鈴木亮さんが2022年10月14日に逝去されました。享年46歳でした。心よりご冥福をお祈りいたします。

(5)施設利用実績

(5-1)施設利用者数

概要はこちら:「5-3. ステーション利用実績」

(5-2)施設を利用した実習

計51実習(公開実習:14、受託実習6、その他31)
詳細はこちら

実習例

(5-3)施設を利用した研究

業績

査読有 査読無
論文(MSC教職員の内数) 学術雑誌 29(28) 0(0) 29(28)
紀要等 0(0) 1(0) 1(0)
解説その他 1(0) 0(0) 1(0)
30(28) 1(0) 31(28)
著書(MSC教職員の内数) 2(2)
学会発表(MSC教職員の内数) 国際会議 7(7)
国内会議 49(43)
56(50)
一般講演等* 16
その他の活動* 7

*MSC教職員のみ
**論文 学術雑誌 査読有にData Paper 1件含む

詳細はこちら:「9.MSC教員業績リスト」「10.ステーション利用による研究業績リスト(MSC教員外)」

研究テーマ

【MSC教職員・学生利用】

【学内利用(MSC関係者以外)】

【学外利用】

(5-4)社会貢献活動

概要と詳細はこちら:「5-4.社会貢献活動実績」

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