5-2. 研究活動実績

(1)機能強化(調査研究)プロジェクト報告

機能強化プロジェクトの概要

重点研究1.山岳県・長野県における野生動物・外来生物の集団動態評価および管理のための研究基盤整備~遺伝解析から農村研究までPertIII~

概要: ツキノワグマ、ニホンジカ、ブラウントラウトを主な対象に、長野県における野生動物・外来生物の集団動態評価および管理のための研究を行った。特にツキノワグマでは木曽~長野県~全国と体形的な研究を行い、長野県のツキノワグマの保護管理関連部会に情報提供できた。またこれまでの継続研究を発展させ、県内外のネットワークも構築拡充することで、民間助成金(住友財団・代表)やR4年度の科研・基盤B(分担)を獲得でき、また受託事業にも対応できた。

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重点研究2.流域内の多様な立地における土砂管理に向けた土砂動態のプロセス解明

概要: 山地上流部から海洋へかけての流域を通じた土砂動態・土砂管理の課題のうち、(1)中山間地の大規模崩壊および土砂・洪水氾濫発生場における水・土砂動態、および(2)下流に冠水被害等を生じさせている広大な農耕地からの土砂流出、についてその実態を解明し、流域における適切な土砂管理対策への知見とすることを目的として取り組んだ。

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重点研究3.草原の生態系サービス評価:エコ・ブランディングによる草原復活シナリオ

概要: この100年間で急速に草原が失われているが、(1)菅平の草原は300年~4000年以上の古い歴史を持つこと、(2)歴史の古い草原は植物-微生物共生系が豊かであること、(3)歴史の古い草原は炭素蓄積が豊かであることが分かった。古い歴史を持つ草原の生態系サービスの可視化を一層進めることが、草原の有効利用と保全にとって大切である。

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個別調査研究1.交雑回避の送粉生態学:花形態はいかにして異種花粉の「上陸」をふせぐか?

概要: マルハナバチを用いた室内実験と野外調査、得られたデータにもとづくコンピュータ・シミュレーションにより「長い雌しべをもつ花は、送粉動物の体表のさまざまな部位に柱頭が触れるため、短い雄しべをもつ花にくらべ動物の体表から異なる植物種の花粉を受け取りやすい」ことを実証した。以上の成果は、研究を主導的に行った大学院生(山口真利枝)が、2つの国内学会で発表(ポスターおよび口頭発表)した。

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個別調査研究2.山がもたらす交雑帯:ハダニ近縁2種の二次的接触帯における遺伝的集団構造

概要:  山は近縁種間の遺伝子流動の妨げとして機能し、種の分化や維持機構に大きな役割を担っていると考えられてきた一方で、山があるからこそ近縁種間の頻繁な接触がもたらされる事例もある。ススキに寄生し、標高による棲み分けがみられるススキスゴモリハダニ種群2種は、西日本の山の中腹にて接触帯を形成している。接触帯における交雑状況をMIG-seq法により調べたところ、雑種はほとんど検出されず、遺伝子浸透は著しく抑制されていると思われた。

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個別調査研究3.山岳域の古民家に関わる発酵のための有用微生物の収集利用

概要: 山岳域の古民家環境に関わる発酵関連微生物について以下を明らかにした。1)茨城県、長野県で茅葺民家の調査を実施し複数の屋根からクモノスカビ属を収集した。つくば市の大塚家住宅では、方角によりクモノスカビの出現頻度に差が認められ温湿度計測を開始した。2)岐阜県関市の古民家再生NPOの協力を得て調査し、古民家の構造や機能と、味噌玉への微生物の定着に相関がある可能性が着想された。3)異なる条件下で柿渋生産を試みた結果、ミキサーで粉砕したカキを樽に入れ、ケカビ属菌により十分熟成させた後に絞って保存する方法が好結果を得た。

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個別調査研究4.自伐型林業への新規参入の現状と課題

概要: 全国展開しつつある自伐(型)林業の取り組みについて、研究レビューを踏まえ、事例研究が比較的少ない東北、北関東で活動している自伐(型)林業の運営組織及び新規参入者の一部が参加する厚労省研修事業参加者を対象に調査を行った。これらから、安全管理、フィールド確保(森林バンク)の面で課題を残しており、地域の調整者(主体形成)については田園回帰との関連、組織における公益部門と経済部門の循環構造が明らかになった。

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【2022年2月追加支援】個別調査研究5.欧米に侵入したササ・タケ寄生性ハダニ類の生物的防除に向けて

概要: 日本から持ち出された生物が海外にて問題となっている。ササ・タケ類に寄生するスゴモリハダニ類はアジア固有種であるが、アジア風ガーデニングの流行のために中国や日本から輸出されたササ・タケ類にまぎれて欧米にもちこまれ、大発生や分布拡大が報告されている。本研究では、定着リスクの低さが確認されていて、ハダニ類や微小昆虫を対象とした農業害虫防除目的に既に世界各国で輸入・販売されている生物農薬(天敵)を利用したスゴモリハダニ類防除手法の確立を目的に、スゴモリハダニ類の捕食に鍵となる形質の探索と捕食-被食の共進化の解明に取り組んだ。

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【2022年2月追加支援】個別調査研究6.山岳域の「吊るし味噌」に関与する菌類相の解明

概要: 前年度の調査を踏まえ、味噌玉を空中に吊るして乾かす「吊るし味噌」の情報収集を試み、長野県、岐阜県で現地調査を行った。安曇野市では3月に味噌玉を3個ずつ2対連結し約2週間干した後に仕込み、ケカビ属、アオカビ属、コウジカビ属等を確認。岐阜県関市では2月に7個ずつ2対連結し2ヶ月干した後、溜まり醤油に2年漬ける独自方式でアオカビ属等を得た。個人生産者の情報は入手が難しく、今後、アンケートや聞き込み等の情報収集を強化しつつ、再現実験により、発生する微生物の起源や機能を解析していきたい。

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【2022年2月追加支援】個別調査研究7.ブラジル熱帯雨林の希少固有植物アカネ科ホチョウジ属Phychotria nudaの遺伝マーカー開発および繁殖生態・遺伝構造の解明:森林生物多様性保全の提案に向けて

概要: ブラジルは世界第2位の森林面積をもつが、大規模な森林伐採、土地改変が続き、生物多様性が脅かされている。本研究ではブラジル中南部の大西洋沿いに広がる熱帯雨林の固有希少植物である一方、生活史特性の多くが不明なアカネ科ホチョウジ属Phychotria nudaの繁殖生態および遺伝構造を解明すべく、次世代シークエンサーを用いて新たな遺伝マーカー取得の手法開発に取り組んだ。

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(2) 実績

研究業績

注 専任は全ての業績を、兼担・協力・連携はMSCに関連した業績を対象としている。

区分1 区分2 査読有 査読無
論文 学術雑誌 86 1 87
紀要等 2 0 2
解説その他 1 17 18
89 18 107
著書 6
学会発表 国際会議 13
国内会議 103
116
一般講演等 35
その他の活動 7

**論文 学術雑誌 査読有にData Paper 1件含む

詳細はこちら:「9.MSC教員業績リスト」
各ステーション研究実績集計はこちら:「7-1.菅平高原実験所」;「7-2.八ヶ岳演習林」;「7-3.井川演習林」;「7-4.筑波実験林」
各部門研究実績集計はこちら:「6-2.山理解」;「6-3.山管理」;「6-4.山活用」

外部研究資金獲得実績

注1 専任、兼担、特別研究員(ステーション常駐)の外部研究資金獲得実績を対象としている。
注2 金額は2020年度分を示す。

区分 件数 (MSC教職員の内数) 金額(円)
科研費等 34 72,556,179
受託研究等 19 37,195,797
寄付金等 14 10,603,440
67 120,355,416

詳細はこちら: 「9.MSC教員業績リスト」

(3) 海外研究拠点事業予算獲得「令和4年度(2022年度)独立行政法人日本学術振興会 研究拠点形成事業-B.アジア・アフリカ学術基盤形成型-」

津田吉晃准教授をコーディネーターに、筑波大学山岳科学センター、お茶の水女子大学、静岡大学、東京農業大学、タルビアト・モダレス大学(イラン)、アショカ生態学環境研究トラスト(インド)、浙江大学(中国)、マヒドン大学(タイ)、ノッティンガム大学マレーシア校(マレーシア)、ガシャマダ大学(インドネシア)協力による研究交流課題「山岳地域における遺伝的多様性データベース構築にむけた先端研究教育拠点の形成(Development of advanced mountain science research and education to establish a vast genetic diversity database)」が「令和4年度(2022年度)独立行政法人日本学術振興会 研究拠点形成事業-B.アジア・アフリカ学術基盤形成型-」に採択されました。

申請書
審査結果
配分額:6,040,000円

目標概要
筑波大学山岳科学センター(以下、MSC)は生物学、地球科学、環境科学、農学など様々な視点を包含する総合科学「山岳科学」を提唱し、構成教員の個別研究に加え、教育関係共同利用拠点として公開実習、受託実習を多く実施することで、国内を主に山岳科学の創生、普及、研究教育に貢献してきた。経済発展が著しいアジアの山岳地域では森林伐採、森林分断化など土地改変による生物多様性の減少が大きな問題となっており、気候変動に伴う生物の分布移動がこの問題をさらに深刻にしている。生物多様性は、近年その経済効果を含めた重要性が広く認識されている生態系サービスの根幹をなし、アジアの広大な山岳森林の維持はカーボンニュートラル対策としても重要であるため、これら問題は人間社会の持続可能性に直結している。しかし、生物多様性条約を締結している国・地域をみても、ゲノム解析技術は進展する一方で、遺伝的多様性保全への取り組みは世界的にみても不十分であり、研究者も環境保全実践者も進化生物学の理解が十分でなく、遺伝的多様性評価およびその訓練・教育も欠如している点が最近の研究で強く指摘されている。そこで本申請では、第1 目標として、集団遺伝学、系統学、分類学や分子生態学などMSCが特に得意とする進化生物学分野の構成教員が主体となり、アジアの6 拠点と共同研究教育体制を構築する。これにより山岳地域に生息する様々な生物群を対象に手法開発も含めて網羅的な遺伝的多様性評価や誰でも公平にアクセスできるデータベース構築の基盤形成を行う。さらに本事業期間内に国際ネットワークを拡充し、自立した国際研究交流拠点となることを目指す。特に次世代の中核を担う若手研究者の育成の観点から、進化生物学の深い理解、遺伝的多様性評価方法の習得、教育の機会の提供を第2 目標とする。具体的には各拠点の若手研究者を対象に、日本および拠点国で5~10 日程度のセミナー、ワークショップを3 年間で複数回開催し、若手研究者の関連分野の理解・スキル向上を目指す。これにより、生物多様性の最小単位である遺伝的多様保全に関してアジア、国、地域社会レベルの様々なステークホルダーにとって必要な科学的知見を提供し、複数の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する。

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