経緯
事故の経緯
2011年2月8日(火)正午過ぎ、苗木採取のために職員2人(うち1名は非常勤)で井川演習林事務所から南西に数キロ、奥泉ダム上流約1kmの大井川右岸にある井川財産区所有地に出かけた。ここは大学の管理する演習林内ではなかったが、これまでも筑波大学の緑化用苗木等を採取させてもらってきたところであった。天候は晴れで暖かく、現地に積雪はなかった。2人とも地元出身で長く山仕事に携わってきたベテランであった。
14時頃、2人は別々に林内を探索していたが、非常勤職員が数十メートル離れたところから叫び声を聞いて小尾根を越えて駆けつけると、水面でもがいているA氏を確認し、崖地を回り込んで救出するもすでに心肺停止状態であった。心肺蘇生を試みた後に徒歩で30分ほどの車に戻って演習林事務所に無線で救助要請。事務所ではただちに警察や消防に連絡して救助に向かったが木におおわれた急傾斜地で難航。最終的にはダム湖を管理する中部電力の船で小島に運ばれた後にヘリコプターで静岡県立総合病院に搬送されたが、17:40過ぎに死亡が確認された。死因は溺死。
背景・問題点・教訓
事故後には労働基準監督署や警察による現場検証があり、演習林による独自調査も行った。その結果、2人で行動していたことや救出後ただちに心肺蘇生を試みたことは評価できるが、下記のような問題点や教訓を確認した。
- 現場(北緯35度12分26秒、東経138度12分42秒)は湖面に面した斜度40度を超える急斜面地であり、滑落すれば湖水に落ちる危険性のある場所であることは予見できた。
- 井川演習林に比べて事務所から近いことや同行した非常勤職員は過去に何回も行った場所だったことから危険な場所へ行くという認識が不十分であった。
- 鋲付地下足袋ではなく踏ん張りの効きにくい鋲付長靴を履き、保護帽(ヘルメット)を装着しておらず、安全装備が不十分であった。
- 苗木採取という業務内容についてはその必要性が業務打合せで何回か話題に出ていたものの、この日に行うことは当日の朝になって決められたものであり、心身の準備という点から問題であった。
- 事務所に残る者に行き先を告げていたものの、正確な場所について明確に共有されていなかった。
- 携帯用業務無線機を携行していなかったため事故発生から事務所への連絡まで時間がかかった。
- 無線連絡だけでは事故現場の特定が難しく、関係機関への連絡や救助に向かうのに支障があった。
労働基準監督署からの指摘事項
静岡労働基準監督署からは今回の事故に違法性はなかったものの業務のあり方について改善の必要があるとして、平成23年3月31日付で学長宛の「指導票」を受け取っている。その指摘事項は以下の通り(原文のまま)。
- やむを得ず一定の水深がある湖や河川の近く等で作業を行う場合には、転落防止対策若しくは救命胴衣の着用等を徹底すること。
- 外部と連絡を取ることが困難な山林内等で作業を行う場合には、連絡用の無線機を常時携帯させる等して緊急時の連絡体制を整備すること。
- 作業開始前に各労働者の作業内容や場所を適切に把握し、作業内容や場所に対応した安全管理上必要な作業指示を行うこと。
- 山林内において作業を行う場合には、保護帽の着用を徹底すること。