山岳科学センター概要

日本の国土の大部分は「山」です。そこには国土の7割を占める森林も広がっており、日本の社会・文化・伝統の多くは山や森林に根ざしています。

日本は山国であり、2016年には国民の祝日“山の日”も制定されました。日本は一方で、海に囲まれている海洋国でもあります。そうした土地柄を反映して、森林科学、海洋科学の研究・教育は日本で広く行われてきました。

しかし、山岳域を対象とする研究・教育は大学・研究機関の研究室単位などで個々に行われていますが、山岳を総合的に探究する研究・教育が十分に体系立っているとはいえません。そこで筑波大学では、理学・農学・工学を横断する山岳科学の確立を目指し、その研究および教育に取り組むことにしました。

「山岳」とは?

山岳とは何でしょうか。周囲より顕著に盛り上がったところ、標高の高いところ、傾斜の強いところなど、様々な定義があります。
こうした定義によれば、世界の陸地の2〜3割が山岳域であり、地球人口の1〜2割が山岳域に住んでいるといわれています。
山岳の下流はさらに多くの人口を擁し、これらの人々も、山から来る恵みと山から来る災いに左右されながら暮らしています。
山岳というと高く険しい山だけを連想するかもしれません。しかし筑波大学山岳科学センターでは、私達の暮らしに密接にかかわっている山岳を広く捉え、山の頂から麓まで、里山・森林など身近な“やま”も含め、山岳として扱っていきます。

「山岳科学」とは?

山岳は地球の地盤に形成され(地球圏)、そこに豊かな生物の営みがあり(生物圏)、それらが人の暮らしに深くかかわっています(人間圏)。
実に、世界の半分の人が山の資源に依存しているといわれています。山国である日本では、山岳に依拠する人々の割合は、もっと高いことでしょう。

山岳の麓から頂きを見上げると、そこには水や物質の流れがありますし、温度をはじめとする環境の劇的な変化があります。
山岳をこのような系として捉え、地球圏・生物圏・人間圏の結びつきを探究することで、山岳を正しく理解し、山岳を適切に管理することができるでしょう。それが、山岳の恵みを活かし、山岳の災いを避けることにつながります。山岳をこのように総合的に探究する学問分野を「山岳科学」と位置づけ、私達はその確立を目指します。

いま山岳域では、生物多様性の減少、豪雨・多雪・土砂移動などによる災害、林業の停滞、山村の高齢化・過疎化、中山間地域の衰退、獣害など、
多数の問題が起き、しかもそれらが複雑に絡み合っています。これらを解決することもまた、山岳科学の課題です。
山国・日本では、これらの課題が先鋭的な形で現れています。これら喫緊の課題への処方箋を見いだすことは、世界の山岳諸問題の解決にもつながっていきます。

山岳科学の確立

理学・農学・工学分野を横断し、地球圏・生物圏・人間圏の観点から山岳を総合的に探求する山岳科学を確立します。

山岳科学:理学分野/工学分野/農学分野

山岳科学センターとは?

旧菅平高原実験センター(1934年~)、旧農林技術センターの井川演習林(1962年〜)、八ヶ岳(1949年〜)、筑波実験林(1973年〜)が2017年4月に合併してできました。 筑波大学筑波キャンパスの多数の教員も兼任し、生物学・農学・地球科学・環境科学を横断する計37名(2018年3月現在)の教員が担当しています。

山岳科学センターの目的

山岳科学センターでは以下の3点を大きな目的としています。

学問分野の発展

学問分野の発展

山岳環境と人間の営みとの関係を地球圏、生物圏、人間圏の観点から総合的に探求する学問分野「山岳科学」を確立して、日本と世界の山岳科学研究を先導する。

地域社会の創生

地域社会の創生

産官学連携のもと、山岳・山間地域の環境保全、防減災そして経済活性化を実現し、安心安全で元気な地域社会創生に貢献する。

人材育成

人材育成

4大学(筑波大学、信州大学、山梨大学および静岡大学)が連携して進める山岳科学に特化した修士課程プログラムとともに、山岳科学を身につけて山岳・山間地域に関わる多くの問題を解決できる人材を育成する。

山岳科学センターの特徴

  • 1出口を見据えた
    3つの研究部門

    既存の研究分野ではなく、研究の出口(山の理解、山の持続的管理、山の活用)ごとに研究部門を設置し、分野融合による山岳科学研究を推進します。

  • 2山岳科学研究
    イニシアティブ

    各研究部門間および学内外との連携を戦略的に構築するための「山岳科学研究イニシアティブ」を設置することで、地域連携、産官学連携、国際・国内共同研究などをスムーズに展開します。

  • 3総合科学としての
    「山岳科学」の確立

    海を対象とした「海洋科学」という学問領域は確立していますが、国土の70%を占める山地と森林を対象とした「山岳科学」は形成途上です。総合科学としての「山岳科学」を確立し、卓越した研究で世界を先導します。

  • 4“山業”を創り出し
    地方創生の実現に貢献

    林業、観光、防減災、水資源、スポーツなど、様々な山岳・山間地域の業(なりわい)の活性化と「“山業”創生」を通じて、安心安全で元気な地域社会づくりに貢献します。

  • 5山岳科学の素養を備えた
    新たな人材の育成

    山岳科学学位プログラムの中核組織として、山岳・山間地域に携わる新たな人材の育成に取り組みます。

  • 6魅力的なフィールド

    山岳科学センターを構成する菅平高原実験所、八ヶ岳演習林、井川演習林、筑波実験林の魅力あふれるフィールドを活かした研究、教育を発展させます。

山岳科学センターの特徴
山岳科学センターの特徴