演習林の研究・計画
研究課題一覧(実施中のもの)
研究課題名 | 概要 | 研究形態・資金 | 担当者 |
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静岡市井川地区のヒノキ林におけるクマ剥ぎ被害 | クマの有害捕獲がクマ剥ぎ被害軽減につながるかを検証するため、2005年から捕獲していない井川演習林内と捕獲を継続している周辺地域で被害状況を2006年から調査している。 | 個人研究 | 藤岡 |
ソウギョを利用した外来水生植物の生物的防除 | 筑波実験林に面する兵太郎池で繁茂する外来植物のスイレンをソウギョで減らす試みを2009年に始めた。ソウギョの脱走を防ぎつつ5年程度でスイレンを最小限に抑えることをめざしている。 | 個人研究 | 藤岡、 実験林教職員 |
八ヶ岳演習林・川上演習林における鳥類相 | 両演習林に生息する生物相のリストアップ作業(インベントリー作成)の一環として、繁殖期と非繁殖期の鳥類相を2012年からライントランセクト法により調査している。 | 個人研究 | 藤岡 |
八ヶ岳演習林事務所構内における鳥類標識調査 | 環境省の鳥類標識調査事業の協力調査員として2011年より八ヶ岳演習林事務所構内でかすみ網による捕獲・標識を行っている。同時にライントランセクト法による調査も実施。 | 個人研究 | 藤岡 |
北海道苫小牧市におけるカササギの新規定着要因の解明 | カササギは日本では外来種で、各地で繁殖記録があるものの、数百年前に持ち込まれた北九州地方以外では定着してこなかったが、1990年代から苫小牧市に定着している。今後の分布拡大予測やその抑制のため、定着要因の解明を進めている。 | 個人研究 | 藤岡 |
森林性小型哺乳類の生態・保護管理に関する研究 | 八ヶ岳・川上演習林において樹上性小型哺乳類ヤマネ(天然記念物)の行動圏及び日中の休息場所および食性等の生態調査をしている。自動撮影カメラを用いてヤマネおよびそれと生態が類似するヒメネズミの夜間の行動観察も始めた。 | 地球環境再生プログラム共同研究(株式会社一成) | 門脇 |
里地里山環境の保全とそこに生息する脊椎動物の生態に関する研究 | 土浦市宍塚大池の里地里山生態系における食物連鎖の関係や生物多様性の維持機構の究明、そこに棲む脊椎動物を主とした生態調査をしている。近年、外来爬虫両棲類(アカミミガメ・ ウシガエル)が里山生態系に与える影響についても調査を始めている。 | 個人研究 | 門脇 |
ウォーカー循環系における大気振動と山岳の森林限界の形成 | 赤道熱帯域の高標高山岳における森林限界形成メカニズムを樹木の生理・生態学的なアプローチから解明する. | 科学研究費 | 清野 |
高電圧パルスを用いた形成層マーキング法の確立 | 樹木の肥大成長の年次パタンの生理解明を,木材解剖特性と樹木の細胞成長から簡易的に解析する手法の開発を行なう. | 科学研究費 | 清野 |
八ヶ岳東麓の森林構造と種多様性を規定する環境要因の解明 | 八ヶ岳周辺の森林の森林構造と種多様性を決める自然・人為的な要因を解明し,現在の森林の成り立ちを明らかにする. | 個人研究 | 清野 |
針広混交林の成立過程の解明 | 北方針広混交林と熱帯山地林において,針葉樹(球果植物)と広葉樹(被子植物)が混交して共存するメカニズムの解明を行なう | 個人研究 | 清野 |
異なる温度環境で生育させた常緑性と落葉性のブナ科実生6種の生理生態応答 | 異なる温度環境(福岡,伊那,筑波)で生育させた常緑性と落葉性のブナ科実生6種の生理生態応答から,気温変化による各樹種の分布への影響を解明する. | 個人,地球再生プロ | 清野 |
巣箱架設高の違いによるヤマネ・ヒメネズミの巣箱利用状況 | 樹上性のヤマネとヒメネズミは、架設・観察がしやすい地上高1.5mの樹幹に巣箱を取り付け調査を行なっているが、高所の架設巣箱利用状況について調査した例は少ないため、センサーカメラを併用し観察する。 | 平成25年度科学研究費補助金(奨励研究)申請中 地球再生プロ経費 | 杉山 |
野生生物の生息(環境)調査に関する研究 | 野生生物の効率的な調査方法の開発を目的とし、樹上生小型哺乳類用巣箱を用いた生息調査の有効性を確認する。 | 株式会社一成共同研究費 | 杉山 |
普及教材として提供可能な基礎資料の充実-主に植物を中心に- | 八ヶ岳・川上演習林において、植物標本、植物のデジタル写真、木材切片のプレパラート等、調査、研究、実習などで使える基礎資料の考案と作成を行う。 | 個人技術向上課題 | 井波 |
演習林内に残る希少種をはじめとした環境保全 | 中間湿原、サクラソウ、ムラサキ・・等、演習林内には今では希少となったものが残る。乾燥化、ササの被圧、シカの食害等色々な要因が影響していると考えられる。そこで希少種の生態調査を実施して要因を解明し、保全へとつなげる。 | 個人技術向上課題 | 井波 |
ニホンジカの狩猟時における運動能力 | 狩猟時におけるニホンジカの運動能力について、性別や個体サイズなどによってどのような差が生じるか調査している。 | 地球再生プログラム | 遠藤 |
ブナ、イヌブナ、ミズナラの結実調査 | ブナ科植物の堅果は野生動物の重要なエサであり、その結実の度合いを調べるために演習林内にリタートラップを設置して調査をしている。 | 個人技術向上課題 | 遠藤 |
森林管理における施業履歴データベースの開発・改良 | 新植や間伐などの施業履歴を管理するデータベースを開発し、今後の施業計画を作成する上で必要な基礎資料の作成を支援するシステムを開発している。 | 個人技術向上課題 | 上治 |
樹木フェノロジーの観測方法の開発 | 一般的に開葉や落葉の様子を目視で確認する観測方法が多く、観測者ごとの誤差が含まれる。このような誤差を除くため、開葉等の様子をデジタルカメラで撮影し、コンピューターで解析することで客観性の高いフェノロジーデータを取得する方法を検討している。 | 地球再生プログラム | 上治 |
カシ類(シラカシ・アラカシ)のキノコ生産終了後の廃原木処理 | カシ類のキノコ発生終了後における廃原木残渣の処理について、植菌等の各種方法を行ない、腐朽の度合いを調べる。 | 個人技術向上課題 | 山田 |
筑波実験林内の昆虫の樹脂標本作製 | 筑波実験林内に生息する昆虫を用い、研究用としての樹脂による封入標本を作製する。 | 個人技術向上課題 | 山田 |
兵太郎池の水質・生物相調査 | 夏には悪臭が漂い、外来生物が生息する兵太郎池の水質・環境改善を目的に、原則月1回、水質・生物相の調査を行っている。 | 個人技術向上課題 | 筑波実験林職員 |
植物見本園樹木の開葉・開花調査 | 筑波実験林に隣接する植物見本園で約20種の樹木について開葉・開花調査を行っている。 | 個人技術向上課題 | 佐藤 |
八ヶ岳・川上演習林 将来構想・長期計画
八ヶ岳・川上演習林事務所(通称「八演」)は、次の3つの場所(団地)を管理しています。
- 八ヶ岳演習林 [80ha]
- 野辺山高原恵みの森(事務所構内=旧八ヶ岳演習林5林班)[14ha]
- 川上演習林 [189ha]
2016年に策定した長期計画(10年計画,pdf1,507 KB)やその後の検討により、2018年1月現在、以下のような基本方針で管理しています。
野辺山高原恵みの森(事務所構内=旧八ヶ岳演習林5林班)
ここは教育研究利用の促進と地域貢献のため、「野辺山高原恵みの森」として、林相や管理の大胆な転換を進めるとともに、地域に開かれた森を目指しています。
八ヶ岳演習林
天然林に中間湿原が点在する特徴を活かします。
1. 中間湿地の保全
中間湿原は、雨水の流れと地下水位の両方の影響を受ける上に、大きな自然撹乱がないと少しずつ森林へ遷移していくため、保全の難しい希少な環境です。八ヶ岳演習林では、木道を設けて踏み付けによる悪影響を減らしたり、地下水位の測定や埋土種子の調査をしてきました。中間湿原はゆっくりですが徐々に面積が減っている状況です。今後、状況によっては、表土を掻き起こす人工撹乱によって湿原を再生する実験を検討しています。当初の実験には恵みの森を使うことになるでしょう。
2. 天然林の保全
八ヶ岳演習林の天然林は、かつて薪炭林として利用されていた頃には萌芽更新していたと考えられますが、演習林となってからは更新されていません。2015年現在で樹齢が約60年に達していますが、森林としてはまだ壮齢期ですので、引き続き手を加えずに観察します。傾斜が緩くてほぼ均一であることから、林内を歩き回ったり、多数の調査機器を設置する野外調査サイトとして使いやすいことをアピールして、学内外の利用を促進します。
川上演習林
川上演習林ではこれからもカラマツ中心の林業的な管理を続けつつ、研究教育利用の促進に努めます。
カラマツ林更新
全国の人工林の例に漏れず、川上演習林でも人工林の林齢構成が高齢級に著しく偏っているため、2016年度から法に基づく5年1期の森林経営計画を立てて人工林更新を進めています。2つの更新区、合計で約25ヘクタールにおいて、5年ごとに1ヘクタール未満の皆伐地をモザイク状に4か所ないし5か所設けて、再びカラマツを植えます。3期15年でほぼ全体が更新されることになります。2016年度からの10年計画策定後に詳細が決まりましたので、詳しくは川上演習林更新計画をご覧ください。
川上演習林の更新計画
概要
川上演習林は、筑波大学が長野県南佐久郡川上村から分収契約によって地上権を借りている面積189ヘクタールの山林です。うち約70%を占める人工造林地(主にカラマツ林)においては、1978年を最後に植栽が行われてこなかったため、林齢構成が著しく偏り、若い林が存在しません。
そこで、2016年度からカラマツ人工林の再構築を始めています。国の補助制度を活用するために、長野県や川上村、南佐久南部森林組合と協議しながら、筑波大学演習林としては初めて森林計画制度にもとづく森林経営計画を立案して進めています。
実施内容の概要は以下の通りです。下にある地図もご参照ください。
- 約12ヘクタールの連続したカラマツ林からなる更新区を2つ設ける。
- 更新区ごとに1期5年の経営計画を3期続ける(15年計画)。
- 各経営計画期間中に5ヘクタール以上の間伐地を設ける。
- 更新区ごとに、各経営計画期間中のある年に30-33%を皆伐する。
- 一つの皆伐区画はおおむね1ヘクタール未満とする。
- 沢筋や急傾斜地は植生保護のため原則として伐採区画から外す。
- 皆伐の翌年にカラマツの苗木を植栽し、その後最大5年間下刈する。
更新区の場所
更新する場所は下図の通りです(2017/06/29天然林・人工林で色分け)。2か所の更新区のうち、更新区2では実際の伐採が始まるのが2019年度ですので、まだ細かい区画は決まっていません。2017年度から伐採が始まる更新区1では、1ヘクタール未満の伐採区画と伐採年度がほぼ決まりました。
- もう少し精度の高い地図(pdf, 1.3MB)
- 更新区1の詳細図(pdf, 2.1MB)
作業前に受託先である森林組合が測量して微修正をしています。 - 森組測量版(pdf, 0.8MB)
紙でもらったものをスキャンしてGIS上でトレースしていますので、林道や林班界とは少しズレがあります。川上演習林では2012年に航空測量を行っており、5千分の1地形図や空中写真も提供できます(基盤データのページ)へ。
※森林組合による測量の結果、最終的な皆伐地の境界には微修正があります。
面積と履歴(更新区1)
2017年度から伐採(皆伐)が始まる更新区1の区画別面積等は以下の表の通りです。上の地図と合わせてご利用ください。同じ内容のcsvファイルはこちらからダウンロードできます。
- 「大学林班」や「大学旧小班」の列は、基盤データのページにある森林管理計画や森林資源構成表、林班図などと照合するためのものです。
- 更新区1は、すべて保安林(水源かんよう)に指定されてる1林班内にあります。
- 各プロットの面積は、森林組合が測量した値です。
- 研究目的であればGIS用のデータも提供可能ですので、お問い合わせください。
- 現地見学等にも柔軟に対応します。
- 2019年度から皆伐が始まる更新区2については、同年春に詳細な区画を公表します。
プロット名 | 面積(ha) | 植栽年度 | 大学林班 | 大学旧小班 |
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皆伐2017A | 0.95 | 1962 | 1 | ろ3 |
皆伐2017B | 1.02 | 1963 | 1 | ろ5 |
皆伐2017C | 0.79 | 1961 | 1 | ろ2&ろ7 |
皆伐2017D | 0.69 | 1963 | 1 | ろ7 |
皆伐2022A | 0.95 | 1962 | 1 | ろ3&ろ5 |
皆伐2022B | 0.79 | 1961 | 1 | ろ1&ろ3 |
皆伐2022C | 0.88 | 1963 | 1 | ろ7 |
皆伐2022D | 0.83 | 1963 | 1 | ろ7 |
皆伐2027A | 0.99 | 1962 | 1 | ろ3 |
皆伐2027B | 0.75 | 1961 | 1 | ろ2 |
皆伐2027C | 0.85 | 1963 | 1 | ろ7 |
皆伐2027D | 0.86 | 1963 | 1 | ろ7 |
未更新地A | 0.68 | 1962 | 1 | ろ3 |
未更新地B | 0.13 | 1963 | 1 | ろ7 |
写真集
基盤調査(モニタリング)
せっかくの本格的な森林更新ですから、八ヶ岳・川上演習林としても伐採前から基盤的なモニタリング調査を実施しています。予算も人員も限られていますが、2017年7月末に下記のような機器を設置してデータを収集中です。
- タイムラプスカメラによる長期継続撮影。積雪深や下層植生の高さも推定できるように測量ポールを写し込みます。4皆伐区で合計9台。
- 光量子計による光環境変化のモニタリング。各皆伐区について、皆伐地とそこに隣接する非皆伐地、およびその境界部の3か所に高さ1m程度で設置し、下層植生へ届く光の量の経年および季節変化をモニタリングします。合計12台。
- 赤外線センサーカメラによる野生動物の撮影。各皆伐区と隣接する非皆伐地に1台ずつ、合計8台
※この他に2基ある量水堰堤での水量測定を再開すべく、現在、水圧センサーやデータロガーを準備するとともに、凍結防止策を試験中です。
調査研究や実習等での利用
更新区内では2017年度から1ヘクタール未満の皆伐地がモザイク状に生じます。2017年度に4か所、最終的には24か所の予定です。これらを活用した調査研究や教育利用を学内外を問わず歓迎します。
フィールドワークにとっては調査地はきわめて大事なことは皆さんご存知の通りです。大学演習林であれば過去のデータ蓄積もありますし、長期的な研究計画も立てられます。今回は、大学演習林としては珍しく、一定規模の民営林として「(補助金を使えば)林業として成り立つ更新」を目指していますので、経営学的な事例研究も可能です。
- 更新区合計面積は約24ヘクタールと、多くの教育研究サイトとしては必要十分な広さがあります(うち皆伐するのは24か所合計約22ヘクタール)。
- 伐採区画が事前にわかっていますので、伐採前から環境変化を追跡できます。
- 経営学的な調査に必要な情報も提供できます。
- 演習林として収集するモニタリングデータ(上記)も提供できます。
- 機材の設置や大規模な操作実験にもできるだけ協力します。
- 宿泊施設のある八ヶ岳・川上演習林事務所から車で15分ほどとアクセス良好です。