1月25日 山岳科学学位プログラム「山岳微生物学」をレポート!
1月24日から25日にかけて菅平高原実験所において、山岳科学学位プログラム(以下「学位プロ」という。)の専門応用科目「山岳微生物学」が開講しました。
◆学位プロってなに?
学位プロとは、筑波大学、信州大学、静岡大学及び山梨大学の4大学が連携する、山岳科学に特化した日本初の大学院のことで、山岳地域を取り巻く環境問題の解決や、山岳生態系の持続的管理などに対応できる人材の育成をめざし、平成29年4月に開設されています。
今回の講座は、筑波大
学オリジナルの履修科目ということであり、学位プロと生物資源科学専攻の学生の7名が参加しました。
◆山と微生物の関係を考える
講座のテーマは「山と微生物の関係を考える」。講師陣は、連携大学院・産業総合技術研究所の星野保教授(専門は菌類の環境適応に関する生理生態)及び、筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の出川洋介准教授(専門は菌類学・植物系統分類学)の両名。2日目の野外実習では「地衣類」を観察することになっていましたので、それに先立つ講義のなかで、出川准教授から細やかなレクチャーがありました。
◆不可思議な生物「地衣類」
わたしたちの身近なところに生息する「地衣類」。でも、改めて指摘でもされない限り、一般になじみの薄い生物です。出川准教授はそうした「地衣類」について、スライドを使いながら興味深い話題を次々と開陳しました。
*「地衣類」は、日本の古典芸能である❝能舞台の背景の松❞にも、ちゃんと描かれている。そこに表現されているのは、ウメノキゴケである。
*「地衣類」はコケ植物とは全く異なる生き物。
*実は「地衣類」は、「菌」と「藻」が合体(菌類と藻類が共生)し、ひとつの体(地位体)をつくる生き物なのである。
*菌類は藻類に対し生活しやすい場所や水などを与え、代わりに、藻類から光合成によって生成される炭水化物を受け取っている。いわば、ギブ&テイクの関係が成立している。
*このギブ&テイクにより、「地衣類」は、森林限界以上の高山帯や極地でも生息することができる。
*地衣類は動物(トナカイ)の餌となり、鳥(ツバメ)の巣の部材となり、染め物(地衣染め)の原料となったりする。
*「地衣類」の成長速度はきわめ遅く、なかにはイワタケのように数十年もかけて大きくなるものがある。
◆さあ、実際に観察してみよう!
講義のあとはお待ちかねの野外実習。スノーシューを履いて、全員で菅平高原実験所のフィールドに繰り出しました。この日は、同実験所の様々な活動をサポートしてくれるナチュラリスト4名も講義から合流。出川准教授のリードオフにより、観察会が賑やかに始まりました。
◆1本の樹で1時間は楽しめちゃうよ!
菅平高原実験所内にあるミズナラなどの古木には、観察対象の「地衣類」が密生しています。学生たちはルーペや拡大鏡を樹幹に当て、熱心に観察を続けます。
「出川先生、これは何ですか?」
「えーと、シラゲムカデゴケですね」
「地衣類」なのにムカデとは、これいかに? などと感心していると、先生の口からは、ロウソクゴケ、チャシブゴケ、ハクフンゴケ、ヒロハカラタチゴケなどの名前がぽんぽんと飛び出してきます。
出川先生の薀蓄に耳を傾けながらも、学生たちが「地衣類」にぐいぐいと惹かれていく様子が手に取るように分かります。
「電車を待っているときなんかにね、少し時間があったら、樹を眺めるといいよ。1本の樹で1時間は楽しめちゃうから。ぼくなんかあんまり熱中し過ぎて、電車に乗りそこねたこともあるよ」
へー、そんな、ナチュラルでお金をかけない《人生の楽しみ方》があるということが、まったくもって驚きです。
◆午後は市内の糀店を見学
菅平高原での野外実習の後は、上田市内まで移動し、糀店を見学しました。
お店のオーナーの山辺さんは筑波大学のOBということもあり、麹の仕込み過程を詳細に解説してくれました。
◆参加した学生からひと言
また、懇親会は実にユーモアあふれるもので、顕微鏡を覗きながら発酵食品を食べるというのは新鮮であった。日本には古来より多くの発酵食品が存在するが、生活の中において、どのような菌がそれを作ったのかを意識して食している消費者は少ないだろう。その点において、懇親会では微生物の力に感謝、感激しながら楽しめたのは、よい体験であった。
地衣類観察は、普段使わないスノーシューと普段注目しない地衣類の世界に飛び込むことのできた、新鮮な体験であった。天気もよく地衣類観察日和だったと思う。
また、麹屋さんに行くのは初めてだったこともあり、山辺糀店の見学は実に面白かった。もう少し講義日程に 余裕があれば酒蔵見学等もくっつけると、発酵食品ができる一連の過程を体験できると感じた。(学位プロ/北本楽さん)
◆閑話休題