JSPS研究拠点形成事業(アジア・アフリカ学術基盤形成型B)
山岳地域における遺伝的多様性データベース構築にむけた先端研究教育拠点の形成|Development of advanced mountain science research and education to establish a vast genetic diversity database

事業概要 Overview

筑波大学山岳科学センター(以下、MSC)は生物学、地球科学、環境科学、農学など様々な視点を包含する総合科学「山岳科学」を提唱し、構成教員の個別研究に加え、教育関係共同利用拠点として公開実習、受託実習を多く実施することで、国内を主に山岳科学の創生、普及、研究教育に貢献してきました。経済発展が著しいアジアの山岳地域では森林伐採、森林分断化など土地改変による生物多様性の減少が大きな問題となっており、気候変動に伴う生物の分布移動がこの問題をさらに深刻にしています。生物多様性は、近年その経済効果を含めた重要性が広く認識されている生態系サービスの根幹をなし、アジアの広大な山岳森林の維持はカーボンニュートラル対策としても重要であるため、これら問題は人間社会の持続可能性に直結しています。しかし、生物多様性条約を締結している国・地域をみても、ゲノム解析技術は進展する一方で、遺伝的多様性保全への取り組みは世界的にみても不十分であり、研究者も環境保全実践者も進化生物学の理解が十分でなく、遺伝的多様性評価およびその訓練・教育も欠如している点が最近の研究で強く指摘されています。

そこで本研究では、第1目標として、集団遺伝学、系統学、分類学や分子生態学などMSCが特に得意とする進化生物学分野の構成教員が主体となり、アジアの6拠点と共同研究教育体制を構築します。これにより山岳地域に生息する様々な生物群を対象に手法開発も含めて網羅的な遺伝的多様性評価や誰でも公平にアクセスできるデータベース構築の基盤形成を行います。さらに本事業期間内に国際ネットワークを拡充し、自立した国際研究交流拠点となることを目指します。特に次世代の中核を担う若手研究者の育成の観点から、進化生物学の深い理解、遺伝的多様性評価方法の習得、教育の機会の提供を第2目標とします。具体的には各拠点の若手研究者を対象に、日本および拠点国でセミナー、ワークショップを3年間で複数回開催し、若手研究者の関連分野の理解・スキル向上を目指します。これにより、生物多様性の最小単位である遺伝的多様保全に関してアジア、国、地域社会レベルの様々なステークホルダーにとって必要な科学的知見を提供し、複数の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献したいと考えています。

概要図