南方種カワアナゴの日本海側での記録地が500 km北上していることを発見

近年、日本の太平洋沿岸の海水温上昇に伴って、南の暖かい地域に生息する魚類が北上していることが分かってきており、日本海沿岸でも、同様の現象が生じている可能性が示唆されていました。

本研究では、日本海側の秋田県の河川下流域で魚類の採集調査を行ったところ、従来は石川県以南で記録されていた南方系の魚類カワアナゴの稚魚が採集されました。本種が秋田県で採集された記録はこれまでになく、日本海側の記録地を約500kmも北東に広げることになりました。

カワアナゴの稚魚や成魚は河川に生息しますが、孵化直後の個体は一度海に下って浮遊生活を送ります。今回の調査では、本種の成魚は採集されておらず、また、秋田県は従来の記録地と比べて寒いため、稚魚が越冬し、成魚まで成長して産卵している可能性は低いと考えられます。従って、今回採集された稚魚は、秋田県より南の地域で生まれ、浮遊生活時に日本海を北東へ流れる対馬海流に乗って北上したと推測されます。

また、既往文献を調査し、これまでの日本海側におけるカワアナゴの記録状況をまとめると、本種の記録は近年増加しており、成魚も複数県の沿岸で見つかっていることが分かりました。これらのことから、本種は日本海側において北上傾向にあると思われます。

カワアナゴの北上と温暖化を直接関連づける知見はまだ得られていませんが、このような、採集調査と文献調査を組み合わせた研究手法は、南方種の北上傾向だけでなく、魚類相や生態系の変化をモニタリングするのに有効であり、水圏生物多様性保全や水産資源の管理などにも役立つと期待されます。

【題 名】 Northernmost record of Eleotris oxycephala (Gobioidei: Eleotridae) based on a juvenile specimen from Akita Prefecture in northern Japan: range extension along the Sea of Japan coastline

秋田県で採集された北限記録のカワアナゴEleotris oxycephalaおよび本州日本海側における北上傾向

【著者名】 Uchu Yamakawa(筑波大学大学院生命環境科学研究科生物科学専攻/山岳科学センター菅平高原実験所), Hiroshi Senou(神奈川県立生命の星・地球博物館), Yoshiaki Tsuda(筑波大学生命環境系/山岳科学センター菅平高原実験所)

【掲載誌】 Biogeography

【掲載日】 2021年9月20日

【DOI】 10.11358/biogeo.23.6

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