奄美大島から日本初報告となるイトアミゴケ属の新種の担子地衣類を報告
2022.3.8
京都大学の升本宙氏(地球環境学堂 日本学術振興会特別研究員)、および筑波大学の出川洋介(生命環境系 准教授)の研究グループは、鹿児島県奄美大島のスギの倒木上において、これまで日本では未報告であったイトアミゴケ属 Cyphellostereum の地衣化担子菌類を採集し、形態観察と分子系統解析の結果、新種、イトアミゴケ C. ushimanum として報告しました。
イトアミゴケはハラタケ綱ハラタケ目ヌメリガサ科に属する担子菌類で、糸状のシアノバクテリア(藍藻)のリゾネマ属 Rhizonema を共生藻として地衣共生を営んでおり、発生基質となる倒木上に白色で薄膜状の子実体(きのこ)と青緑色〜緑色で繊維状の地衣体を形成します(図1)。
本種は共生藻であるリゾネマ属 Rhizonema の細胞内に菌糸が侵入して吸器を形成する点で、本属の既知種にはみられない特徴を有しています(図2)。菌糸が共生藻の細胞内に侵入する様子は、筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 HT-7700)を用いて観察されました。さらに、本属の子実体はこれまで有柄の扇状であるとされてきましたが、本種は無柄の薄膜状である点も独特な特徴です。
本研究における新種イトアミゴケの発見は、本邦において藻類と地衣共生する担子菌類の多様性が未解明のまま残されていることを示唆しており、今後の更なる調査によって地衣化する菌類の認識がより一層深まることが期待されます。
この研究結果は、2022年3月4日にドイツ菌学会が発行する国際誌「Mycological Progress」に掲載されました。
タイトル(英文):Cyphellostereum ushimanum sp. nov. (Hygrophoraceae, Agaricales) described from Amami-Oshima Island (Kagoshima Prefecture, Ryukyu Islands), Japan, with ultrastructural observations of its Rhizonema photobiont filaments penetrated longitudinally by a central haustorium
タイトル(日本語):日本の奄美大島(鹿児島県、琉球列島)で採集された Cyphellostereum ushimanum(ハラタケ目ヌメリガサ科)を新種として記載し、吸器によって共生藻 Rhizonema の繊維が縦方向に侵入された様子を微細構造観察した
著者名(英文):Hiroshi Masumoto, Yousuke Degawa
著者名(和文):升本 宙、出川 洋介
書誌情報:Masumoto H, Degawa Y (2022) Cyphellostereum ushimanum sp. nov. (Hygrophoraceae, Agaricales) described from Amami-Oshima Island (Kagoshima Prefecture, Ryukyu Islands), Japan, with ultrastructural observations of its Rhizonema photobiont filaments penetrated longitudinally by a central haustorium. Mycological Progress 21(1): 167–179. https://doi.org/10.1007/s11557-021-01766-w
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