地震時の破壊伝播の非常識は常識になるか?〜2010年El Mayor-Cucapah 地震で観測された逆破壊伝播〜

筑波大学の八木勇治(生命環境系・教授)らの研究グループによる研究成果がプレスリリースされました。

※詳しくはコチラ >> 筑波大学プレスリリース

※書誌情報 (オープンアクセス) >> Yamashita, S., Yagi, Y. & Okuwaki, R. Irregular rupture propagation and geometric fault complexities during the 2010 Mw 7.2 El Mayor-Cucapah earthquake. Sci Rep 12, 4575 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-08671-6

地震は震源から破壊が開始し、震源から遠ざかるように断層面上で破壊が伝播する。これが地震学の常識でした。しかし近年、破壊が震源から遠ざかった後、震源方向に破壊が逆伝播(逆破壊伝播)する地震の存在が確認されるようになりました。これには、本研究チームが開発した新手法「ポテンシー密度テンソルインバージョン」が大きく貢献しています。複雑な断層帯で発生する地震を的確に解析できるためで、地震学の常識を覆す、震源に向かうように逆破壊伝播する地震の発見が相次いでいます。この手法は、断層の形状と破壊伝播過程の同時推定も可能としたため、断層形状の不連続な変化が不規則な破壊伝播に影響を与えることも明らかになりつつあります。

2010年El Mayor-Cucapah 地震は2010年4月、アメリカ・メキシコ国境付近で発生した地震です。現地では、地震の破壊が逆方向に伝播したとの証言がありました。本研究チームは、当時の観測データにポテンシー密度テンソルインバージョンを適用し、本地震の断層形状と破壊伝播過程を同時推定しました。その結果、地震発生から15秒間、震源から遠ざかるように初期破壊が伝播した後、主破壊が震源に向かっていく様子を捉えることに成功しました。地表に現れた断層と整合的な断層形状の情報を取り出すことにも成功しました。さらに、断層形状が不連続に変化する領域で破壊がいったん押しとどめられ、その後急加速する様子も捉えることができました。

本研究の結果は、地震学者の常識だった、破壊は断層に沿って震源から離れる方向に伝播するという考えはもはや時代遅れであり、将来発生する恐れがある大地震の地震動を予測する際には逆破壊伝播も考慮に入れる必要があることを示しています。

一方、本研究が示すように、断層形状と破壊伝播過程の関係性を地震波解析によって捉えることができるようになってきました。震源断層は予め調査することができます。新手法による地震波解析の結果と活断層調査の結果を統合することで、地震動予測の精度を高められる可能性も示しています。

※本研究は、JSPS科研費 (19K04030)、研究大学強化促進事業 (国際テニュアトラック制度) などの支援で実施されました。