カゲロウ類における流程分布パターンの季節的変化:モンカゲロウ (Ephemera) 属2種間におけるニッチの重複域での種間相互作用

信州大学の岡本聖也氏(大学院総合医理工学研究科)、竹中將起氏(理学部 特任助教/元筑波大学生命環境系 特任助教)、東城幸治氏(理学部 教授)らの研究グループによる研究成果が、このたび発表されました。

河川の上流域と中流域のそれぞれに適応している2種は、同一河川において同所的に生息しています。これまでに2種の分布は、オーバーラップしながらも流程分布していることを示してきましたが、本論文においては2種の分布範囲が季節によって変動することを示しました。また、生息地の選好性の違いと地理的に細かいスケールでの流程分布パターンの種間差について詳細に追究するとともに、それらの分布パターンの時間的遷移を詳細に調査し、季節変化を調査しました。

中流域に適応しているモンカゲロウ Ephemera strigata は、5月に一斉に羽化します。羽化した後、中流域ではモンカゲロウの幼虫の埋めていたニッチが一時的に空白になり、この空いたニッチを上流域のフタスジモンカゲロウ Ephemera japonica の幼虫が夏の間利用することが明らかになりました。

従来は、種間相互作用によって2種の分布は少しの重複がありながらも流程分布していると考えられてきましたが、片方の種が抜けることでそのニッチを利用するという、季節的な流程分布の変化を示すことができました。これまでに河川における流程分布についての報告はいくつかあるものの、本研究は季節によって分布傾向が変化することを示した成果となっています。

この研究は、河川に生息する種における種の多様性と分布パターン形成への新しい洞察を提供します。

書誌情報:Okamoto, S., Takenaka, M., & Tojo, K.(2022). Seasonal modifications of longitudinal distributionpatterns within a stream: Interspecific interactions in theniche overlap zones of two Ephemera mayflies. Ecology and Evolution, 12, e8766. https://doi.org/10.1002/ece3.8766.

図
女鳥羽川(長野県松本市)におけるフタスジモンカゲロウ Ephemera japonica とモンカゲロウ Ephemera strigata の生活史と分布パターン。上:2種の毎日の羽化数と降水量。下:各研究サイトでの2種の平均密度と生物量(バイオマス)。モンカゲロウが羽化した5月以降に、上流種のフタスジモンカゲロウの幼虫が流下していることを示した。カゲロウ類の写真は刈田敏三氏提供。

この研究についての詳細はこちら>> https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/ece3.8766