菅平高原実験所からのみ知られる Myconymphaea yatsukahoi がイシムカデの糞生菌であることを解明

筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所(以降実験所)の高島勇介(特別研究員)、出川洋介(生命環境系 准教授)、李知彦(生物学学位プログラム)および陶山舞氏(当時大学院生)、栃木県立博物館の山本航平氏(学芸部自然課 研究員)、茨城大学の成澤才彦氏(農学部 教授)らのグループによる研究成果が、このたび発表されました。

いまから20年以上前、池田八果穂氏(当時実験所町田研究室所属、現大分大学)が実験所内で採集したコムシの死骸より一度だけ得られた分離菌株に基づいて、Myconymphaea yatsukahoi(キクセラ目)が栗原祐子氏らにより記載されました。このたび、それ以降見つかっていなかった M. yatsukahoi を同タイプロカリティより再発見し、さらに生態が未知であった本菌がイシムカデ目の糞より特異的に発生する「糞生菌」であることを解明しました。

菌類のうち、子実体(キノコ)を形成し肉眼で発生を確認できるものとは異なり、肉眼で見えない微小菌類の多様性を把握するためには発生形質の特定が重要です(図)。本研究では、はじめに著者らによる野外観察および土壌試料を用いた湿室培養法により、実験所内の倒木裏の節足動物糞および玉原高原の土壌試料から M. yatsukahoi を再発見することに成功しました。

図.微小菌類における発生基質の特定の重要性。本研究では発生基質(イシムカデ目の糞)を特定することにより、原記載以降ほとんど見つかっていなかった Myconymphaea yatsukahoi が容易に採集可能な種になった。

このうち前者に関して、節足動物糞中にムカデの腸内に生息するグレガリナ(アピコンプレクサ門)の仲間のシストが確認されたことから、実験所および玉原高原の林床内倒木裏に同所的に生息するイシムカデ目およびアカムカデ目に属するムカデを捕獲、その糞を回収し、寒天培地上で培養することで M. yatsukahoi の発生の有無を調査しました。その結果、イシムカデ目の糞から M. yatsukahoi の発生が確認された一方、アカムカデ目の糞からは本菌は全く確認されませんでした。また、調査全体でのイシムカデからの M. yatsukahoi の検出率は、個体当たり28%(21/73個体)、糞当たり7%(40/568個)でした。この結果は、イシムカデ目の糞が M. yatsukahoi の特異的な発生基質の1つであることを示していました。

Myconymphaea ytsukahoi を含むキクセラ目には、単型属(1属1種からなる属)が複数存在し、原記載以降ほとんど再発見されていない種もたくさんあります。これは、M. yatsukahoi と同様、特定の節足動物の糞生菌として生態を持つためかもしれません。そのため、キクセラ目の隠れた多様性の解明に向けて今後、様々な節足動物糞におけるキクセラ目菌類の特異性を解明していく必要があります。

この研究成果は日本菌学会が発行する国際誌「Mycoscience」に2022年6月20日に掲載されました。本研究は、公益財団法人発酵研究所の助成を受けて実施されました。

タイトル(英文):Revisiting the isolation source after the first discovery: Myconymphaea yatsukahoi on excrements of Lithobiomorpha (Chilopoda)

著者名(英文):Yusuke Takashima, Mai Suyama, Kohei Yamamoto, Tomohiko Ri, Kazuhiko Narisawa, Yousuke Degawa

掲載誌:Mycoscience

公開日:2022年6月20日

Doi:https://doi.org/10.47371/mycosci.2022.04.003