奥尻島のブナ集団は最終氷期最盛期以前に形成された〜ブナの北方への分布移動の歴史〜
2022.12.16
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所・八ヶ岳演習林の津田吉晃(生命環境系 准教授)、森林総合研究所の北村系子氏(北海道支所 主任研究員)および松井哲哉氏(生物多様性・気候変動研究拠点 気候変動研究室 室長/山岳科学センター連携大学院 教授)、北海道教育大学の並川寛司名誉教授、十日町市立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロの小林誠学芸員による研究成果が、このたび発表されました。
詳しくはこちら>> 筑波大学プレスリリース
ブナは日本を代表する冷温帯樹種で、南は鹿児島県大隅半島の高隅山から北は北海道黒松内周辺まで分布しています。本研究グループではこれまでに、道南~黒松内および以北に隔離分布しているブナの分布最前線と、これら集団の遺伝的多様性や集団形成の歴史を明らかにしてきました。
本研究では、まだ解析されていなかった、北海道奥尻島のブナ集団に焦点をあて、東北地方~北海道本島も含めて、母性遺伝する葉緑体DNAおよび両性遺伝する核DNAを用いて、集団遺伝学的解析を行いました。その結果、奥尻島には全国で見られる日本海側系統と太平洋側系統の両系統のブナが分布していました。集団動態の歴史の推定からも、奥尻島のブナ集団は、北海道および東北地方集団双方からの混合により形成され、その後も北海道、東北地方から遺伝的交流があったことが示唆されました。また、奥尻島の最も古いブナ集団は、最終氷期最盛期(約2万年前)より前に形成された可能性が高いことが分かりました。これは、花粉解析など古生態学的な先行研究や奥尻島の地史を支持しています。さらに、現在は離島として隔離されていますが、その遺伝的多様性は北海道、東北地方の集団と同程度でした。これらのことから、奥尻島のブナ集団は、複数回にわたる個体または種子、花粉の移動や、他地域からの遺伝的交流によって形成されたことが明らかになりました。
本研究成果は、ブナが北限地域へどのように分布したかを理解する上で重要であるだけでなく、今後の冷温帯林の気候変動影響評価にも資するものです。
タイトル:Possible northern persistence of Siebold’s beech, Fagus crenata, at its northernmost distribution limit on an island in Japan Sea: Okushiri Island, Hokkaido(分布北限の日本海・奥尻島のブナ集団の最終氷期最盛期の北方生残の可能性)
著者名:Keiko Kitamura(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所・北海道支所)、Kanji Namikawa(北海道教育大学教育学部札幌校)、Yoshiaki Tsuda(筑波大学生命環境系/山岳科学センター菅平高原実験所・八ヶ岳演習林)、Makoto Kobayashi(十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ)、Tetsuya Matsui(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所/筑波大学生命環境系)
掲載誌:Frontiers in Plant Science
掲載日:2022年12月15日
【2023.3.14追記】この研究成果について、2023年3月5日発行のしんぶん赤旗に掲載されました。