シミ類の中腸は「卵黄細胞由来」〜昆虫類の大繁栄につながる中腸形成様式の変更〜

【2023.3.9追記】この成果に関するエピソード番組が公開されました。

こちら>> シミは語る!昆虫を大繁栄に導いた進化の大発見(筑波大学ポッドキャスト「研究室サイドストーリー」)

筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の町田龍一郎(生命環境系 客員研究員)、福島大学の武藤将道氏(共生システム理工学類 客員研究員)と塘忠顕氏(同 教授)、北里大学の増本三香氏(一般教育部 講師)の研究グループによる研究成果がこのたび発表されました。

詳しくはこちら>> 筑波大学プレスリリース

昆虫類は全動物種の75%を占める最も繁栄した動物群で、その99%は翅(はね)を獲得した有翅昆虫類、残りの1% は原始的で翅を獲得する段階には達していない無翅昆虫類です。昆虫類の消化器系の中で最も重要な器官である中腸は、無翅昆虫類ではもっぱら卵黄細胞により形成されますが、ほとんどの有翅昆虫類を含む新翅類では前腸と後腸の伸長により形成され、有翅昆虫類のうち、最初に出現した、原始的な旧翅類では無翅昆虫類と新翅類の折衷型の中腸形成様式が知られています。一方、無翅昆虫類の中でもっとも有翅昆虫類に近縁とされるシミ目の中腸形成については、他の無翅昆虫類と同様に卵黄細胞のみで形成されるのか、それとも有翅昆虫類のように、前腸や後腸もその形成に関与するのか、よく分かっていませんでした。

本研究では、厳密な組織学的観察および微細構造学的観察により中腸形成過程を詳細に検討し、シミ目の中腸は卵黄細胞のみに由来することを明らかにしました。シミ目の中腸が卵黄細胞のみに由来することが明らかになったことで、無翅昆虫類のすべてにおいて中腸は「卵黄細胞由来型」であり、素早い中腸形成が可能となる前腸・後腸の中腸への分化能は有翅昆虫類で初めて獲得されたことが明らかになりました。昆虫類の大繁栄は類を見ないほどの有翅昆虫類の多様化によりもたらされましたが、その背景にある要因の一つとして、スピーディーなライフサイクルの進行につながる形態形成の効率化が挙げられます。つまり、有翅昆虫類での前腸・後腸由来の中腸形成の獲得は、昆虫類の大繁栄につながる重要なできごとであったと理解することができます。

タイトル:Revisiting the formation of midgut epithelium in Zygentoma (Insecta) from a developmental study of the firebrat Thermobia domestica (Packard, 1873) (Lepismatidae).

(マダラシミ Thermobia domestica (Packard, 1873) (シミ科)の発生学的研究によるシミ目(昆虫綱)の中腸上皮形成の再検討)

著者名:Shodo Mtow, Tadaaki Tsutsumi, Mika Masumoto, Ryuichiro Machida

掲載誌:Arthropod Structure & Development

掲載日:2023年2月14日

Doi:10.1016/j.asd.2023.101237

関連ページ>> シミ類の中腸は「卵黄細胞由来」〜昆虫類の大繁栄につながる中腸形成様式の変更〜(町田研究室NEWS)

この研究成果については、2023年2月18日発行の信濃毎日新聞に掲載されました。

詳しくはこちら>> 昆虫類大繁栄の過程探る鍵か シミ目の内腸「通説と異なる形成」突き止める 菅平の筑波大グループが発表(信濃毎日新聞デジタル 会員限定記事)

【2023.2.24追記】この研究成果について、2023年2月22日に福島 NEWS WEB でとり上げられました。

詳しくはこちら>> 「消化管」を素早く作る能力獲得 昆虫の繁栄に寄与か(福島 NEWS WEB)