開催報告|菅平生き物標本展

2023年11月3日、菅平高原実験所にて、特別企画展「菅平生き物標本展」を開催しました。

このイベントは、多くの人にさまざまな生物の標本に親しんでもらおうと、今回初めて菅平高原実験所で企画しました。会場は敷地内の2か所で、国の登録有形文化財「大明神寮」では標本を中心とした展示を、実験研究棟の実習室ではいくつものワークショップを開催しました。

このイベントの実施にあたっては、実験所ボランティアスタッフからなる「菅平ナチュラリストの会」が計画段階から参加し、展示物やワークショップ準備にご尽力いただきました。当日もメンバー(ナチュラリスト)が各コーナーに立ち、来場者に展示物の解説やワークショップのサポートを行いました。また、ナチュラリスト基礎講座受講生の方々も、当日の運営にご協力いただきました。

展示会場 大明神寮

会場の一つである大明神寮では、畳敷きの元宿泊室と元食堂を使い、植物、昆虫、菌類、大明神寮紹介等の展示を行いました。

国の登録有形文化財「大明神寮」が展示会場
国の登録有形文化財「大明神寮」が展示会場

植物標本展示室では、当実験所の植物標本庫が所蔵する標本の中から、朝のドラマで話題になった牧野富太郎博士に由来する植物を中心に展示しました。各標本にはナチュラリストが撮影した写真と手書きのコメントが添えられ、実物標本と合わせて楽しめるような工夫がされていました。また、菅平を特徴づける氷期遺存種の展示や、この部屋が宿泊室として使われていたころを想像させるような展示もありました。

植物標本展示室
植物標本展示室
当日は親子連れも目立った
当日は親子連れも目立った

昆虫標本展示室では、昆虫標本庫からナチュラリストが選んだ標本箱6つが並べられ、コガネムシやハチなど約150点の標本が展示されました。壁にはナチュラリストによるチョウなどの写真約40点と、オオムラサキや高山蝶のポスターのほか、チョウとガを解説するスライドショーも見られるようになっていました。また、「開けるな」と書かれた押し入れを開けると、そこにはナチュラリストが集めた動物の骨などが展示されている、といった仕掛けもありました。

昆虫標本展示室
昆虫標本展示室
ナチュラリスト(左端)が展示物を解説
ナチュラリスト(左端)が展示物を解説

菌類標本展示室では、部屋全体を使って菌類の系統図に沿った展示が行われました。各分類群の説明をパネルや資料、模型を使って行い、今年ナチュラリストが収集し作製したキノコの乾燥標本も、野外での写真とともに展示されました。臭豆腐や味噌などの発酵食品もあり、菌類をさまざまな視点から学べる展示となっていました。また、地衣類や変形菌のコーナーもあり、8畳の空間にたくさんの情報が詰まっていました。

人だかりの菌類標本展示室
人だかりの菌類標本展示室
発酵食品や地衣類も展示
発酵食品や地衣類も展示

一番奥の元食堂では、大明神寮、ナチュラリスト活動、標本整理活動、日本人二人目のノーベル物理学賞受賞者で元東京教育大学学長の朝永振一郎博士に関するポスター展示を行いました。また、大明神寮で毎年行っている柿渋塗りの説明や、自作に挑戦している柿渋試作品も展示しました。さらに、室内にはカビの生えた味噌玉があり、これは菅平菌学研究室の大学院生が自身の研究のために作成し、大明神寮内で記録実験を行っているという解説がありました。そのほか、敷地内で見つけられる木の実や、かつて出土した土器のかけらなどが展示されていました。

元食堂でのポスター展示
ワークショップ会場

もう一つの会場、実験研究棟の実習室ではワークショップが行われました。

「植物標本を完成させよう」では、ナチュラリストが事前に作っておいた約100点の押し葉から来場者が好きなものを選らび、和紙とのりを使って台紙に貼りつけ、ラベルに記入して完成させる作業を行いました。「昆虫を分類してみよう」では、ナチュラリストが夏のあいだに採集し凍らせておいたいろいろな昆虫を、実体顕微鏡を使いながら目(もく)ごとに分類しました。これらのワークショップでは、植物標本と昆虫標本の作製に使用する道具や、作製方法の展示も隣のスペースで行いました。

ワークショップ会場。手前は「植物標本を完成させよう」コーナー。
ワークショップ会場。手前は「植物標本を完成させよう」コーナー。
ナチュラリスト(右)が押し葉の固定方法を教える
ナチュラリスト(右)が押し葉の固定方法を教える
「昆虫を分類してみよう」で昆虫を学ぶ参加者たち。中央は町田龍一郎客員研究員。
「昆虫を分類してみよう」で昆虫を学ぶ参加者たち。中央は町田龍一郎客員研究員。
いろいろな昆虫を観察
いろいろな昆虫を観察
植物標本と昆虫標本の作製に使用する道具や、作製方法の展示
植物標本と昆虫標本の作製に使用する道具や、作製方法の展示

「顕微鏡で土壌動物や菌類を観察してみよう」では、ツルグレン装置で採れたトビムシやダニなどの土壌動物や、地衣類、変形菌、ツユクサの気孔、シダ植物の胞子嚢(ほうしのう)など、さまざまなものを観察しました。筑波大学の教員も、その場で来場者への解説を行いました。

「顕微鏡で土壌動物や菌類を観察してみよう」
「顕微鏡で土壌動物や菌類を観察してみよう」
出川洋介准教授(左)、藤田麻里特任助教、ナチュラリストが来場者に解説
出川洋介准教授(左)、藤田麻里特任助教、ナチュラリストが来場者に解説

時間を限定して行われた「ラミネート加工 ~葉っぱで遊ぼう~」では、クローバーや落ち葉を使ってしおりを作りました。また、午前と午後に1回ずつ「標本庫見学ツアー」を実施し、職員が植物標本庫と昆虫標本庫のガイドを行いました。

「ラミネート加工 ~葉っぱで遊ぼう~」を担当するナチュラリスト
しおりにする葉っぱを選ぶ来場者

この日は快晴で、季節外れの暖かさにも恵まれ、県内外から約200人にお越しいただきました。展示会場では、明るい陽射しの差し込むこの日限りの展示室で、来場者はゆったりと見学を楽しんでいました。ワークショップ会場では、大人も子供も一緒になって、ナチュラリストと教員に教わりながら普段できない体験をしていました。見学を終えた方に実施したアンケートでは「展示の仕方の雰囲気がよく、解説も丁寧で分かりやすく面白かった」「孫が楽しそうだった」「人が多くてよく見られなかったものがあったので、もう少し広い場所で開催してほしい」「また来たい」「一日の開催ではもったいない」といった声や、子供からも「全部よかった」「冬虫夏草を教えてもらえてよかった」「顕微鏡でいろんなものを見られて楽しかった」「また来ます」といった感想が寄せられました。

菅平生き物標本展は実験所として初の試みで、白紙状態からナチュラリストと教職員とで話し合いを重ね、約半年をかけて準備してきました。展示もワークショップも、来場者がどのような感想を持つのか気がかりでしたが、蓋を開けてみると嬉しいことに大変好評で、どのコーナーからも明るい声と笑顔があふれる一日となりました。今後同様のイベントを実施するかは未定ですが、今回得られた経験を大切にし、大学と地域とをつなぐイベントを引き続き企画していきたいと考えています。

菅平生き物標本展は昨年から開始した「みんなの標本庫」計画の一環で、日本科学協会の2023年度笹川科学研究助成「一般市民との協働による生涯学習の場『みんなの標本庫』での菌類及び地衣類標本整備に向けた手法開発」により実施しました。

当日のようすは、2023年11月7日の上田ケーブルビジョン「UCVレポート」で放送されました。【2023.11.28追記】2023年11月25日発行の週刊うえだにも掲載されました。

当日の大明神寮のようすは下記ページでも紹介しています。