高山の樹木ダケカンバで、祖先的な二倍体の系統を発見

 ダケカンバは日本の高山やロシアの寒冷・多雪地に広く分布する樹木です。通常はゲノムを4セット持つ四倍体ですが、四国・紀伊半島の本種はゲノムを2セットしか持たない二倍体で、より祖先的なことが分かりました。厳しい環境に適応した本種の歴史を解く手がかりとなることが期待される成果です

 通常の生物はゲノム(全遺伝情報)を2セット持っており、これを二倍体と呼びます。倍数体は通常より多くのゲノムを持つ生物のことで、ゲノムが増える倍数化は種の多様化の大きな駆動要因です。一般に倍数体はより大きな器官を形成するため、栽培植物(例えばコムギやカキなど)として多く利用されています。また、野生植物の倍数体は乾燥・寒冷条件の地域に多く分布する傾向にあり、倍数化の過程を追うことは、種が厳しい環境にどのように進出したのかを理解する鍵となると考えられます。

 ダケカンバ(カバノキ科カバノキ属)はゲノムを4セット持つ四倍体として知られ、日本列島・朝鮮半島・極東ロシアの寒冷・多雪地に広く分布する落葉樹です。日本では、1500m以上の高山に登れば必ずと言っていいほどその姿が見られ、日本や東アジアの山岳地の植生形成過程を語る上で欠かせない存在です。近年の研究でカバノキ属の系統関係が分かってきており、ダケカンバは2種類の二倍体の雑種が起源であることや、未確認の二倍体が近い系統に存在することが示唆されていました。

 本研究チームの先行研究から、南限地の紀伊半島に自生するダケカンバは、遺伝的に他集団と大きく異なることが分かっていました。今回、本研究チームは南限の自生地を包括的に調査し、四国の石鎚山と剣山、紀伊半島・釈迦ヶ岳の個体の倍数性と葉・種子の形態を調べました。その結果、これら南限地の個体は二倍体で、葉や種子の形態も本州の系統と区別できることが分かりました。

 これらの地域は日本列島に古くに渡ってきたと考えられる固有の植物群が多く分布します。ダケカンバの二倍体系統も祖先的な系統と考えられ、高山や寒冷環境に広く分布を広げた本種の歴史や、日本列島の山岳地の植生形成過程を理解する上で重要な手がかりとなることが期待されます。

タイトル:Cryptic diploid lineage of Betula ermanii at its southern boundary populations in Japan.(日本の分布南限地におけるダケカンバの二倍体系統)

著者名:Takaki Aihara, Kyoko Araki, Yoshihiko Tsumura

掲載誌:PLoS ONE

掲載日:2024年7月18日

Doi 10.1371/journal.pone.0307023