開催報告 | 筑波大学 山岳科学センター・環境系学位プログラム 合同シンポジウム「2100年の山や森を守るために」

2025年3月9日、筑波大学理科系C棟・C103にて【山岳科学センター・環境系学位プログラム 合同シンポジウム「2100年の山や森を守るために」】が開催され、現地約50名、オンライン約260名の方にご参加いただきました。

冒頭に、中田和人 筑波大学生命環境系長、角替敏昭 筑波大学生命地球科学研究群長による開会の挨拶があり、次に、内田太郎 筑波大学環境学学位プログラムリーダーから山岳科学センター・環境系学位プログラムそれぞれの組織の説明と本シンポジウムの趣旨説明が行われました。

中田和人 筑波大学生命環境系長
角替敏昭 筑波大学生命地球科学研究群長
内田太郎 筑波大学環境学学位プログラムリーダー

午前の部では、2名の登壇者から基調講演をいただきました。

大手信人氏(京都大学大学院 情報学研究科 教授)からは「なぜ人には森が必要なのだろう? -自立的な中山間地の可能性を考えるために-」のタイトルで、森と人とのかかわりについて、森林における問題、森林の役割(実質的な必要性・心理的な必要性)、人にとっての森林に対する価値観・距離感の変化、今後の課題等、多面的にご講演いただきました。

大手信人氏(京都大学大学院 情報学研究科 教授)

続いて、國友優氏(国土交通省 水管理・国土保全局 砂防計画課長)からは「国土保全と流域治水」のタイトルで、歴史的観点からの国土保全、流域治水、砂防について、また2100年の国土保全を考えるにあたっての課題(気候変動、人口減少)、最後に流域治水上の砂防として山や森を守るために貢献できることは何か等の詳細について多くの図解により大変わかりやすく、行政の立場からご講演いただきました。

國友優氏(国土交通省 水管理・国土保全局 砂防計画課長)

午後はまず、筑波大学山岳科学センターと環境系学位プログラムでの研究について話題提供として3名から紹介致しました。

山川陽祐 山岳科学センター井川演習林長は「中部山岳地域の水循環」のタイトルで、水資源の利用・管理や山間地のくらしと洪水(防災)に関する観測研究について、これまでの歴史や現在の課題(崩壊地からの土砂の流出)、インフラストラクチャー、災害の状況や研究課題、方法等を説明しました。

山川陽祐 筑波大学山岳科学センター井川演習林長

続いて、山路恵子 環境科学学位プログラムリーダーは「鉱山跡地の土壌と植生」のタイトルで、鉱山の特殊性と植生、鉱山のススキの研究から導かれた課題(長期的な植物の定着)、基礎研究を現地での課題解決にどう活かせるか(植栽条件の最適化)について説明しました。

山路恵子 環境科学学位プログラムリーダー

続いて、廣田充 山岳科学学位プログラムリーダーは「茅利用が支える中山間地域の生態系サービスの現状と課題」のタイトルで、過去・現在・未来にわたる生物多様性の危機の状況についてつまびらかにしながら、かつて頻繁に利用されていた中山間地域が使われなくなった問題の解決ヒントとしての茅利用について説明しました。

廣田充 山岳科学学位プログラムリーダー

話題提供の講演に続いて、講演会場に近い理科系B棟・B107にて学生によるポスターセッション(16件)を行いました。

ポスターセッション会場 

午後、最後の基調講演として、渡部圭一氏(筑波大学 人文社会系 准教授)から「山地荒廃をめぐる防災の在来知:歴史民俗学の視点から」のタイトルで、地域社会の暮らしの側からの砂防、滋賀県の比良山地の砂防について、山はなぜ荒れたのか、砂をめぐる在来知、荒れた山のその後等について、民族学の視点から、江戸時代以降の文献、過去100年を知る方の証言等の詳細な実例に関するご説明も交えながら、ご講演いただきました。

渡部圭一氏(筑波大学 人文社会系 准教授)

続いて、登壇者による「2100年の山や森、山村について考える:山地地域に分散してひとびとが暮らす意味」のタイトルでパネルディスカッションを行いました。
普段調査研究している中での山や森と人との関係および現在研究している課題が与える影響等の今後100年の展望について、また、事前のアンケートでご質問いただいた中山間地域に住む意義および森林・山の意義について、「人口減少」「過剰利用/過小利用」「都市と山村」「気候変動」「想像力」等のキーワードを中心に有意義な意見が交わされました。

最後に、津村義彦 筑波大学山岳科学センター長から閉会挨拶があり、シンポジウムは盛会のうちに終了いたしました。

津村義彦 筑波大学山岳科学センター長

シンポジウム前からSNS等で多くの方に関心をお持ちいただき、シンポジウム後も「多様な視点の講演があってとても良かった。」「本気で様々な分野から良くしようとしている大人が大勢いることが分かった。(参加学生)」等の感想が寄せられました。

講師の皆様、ご来場の皆様、オンラインでご視聴いただいた皆様、心よりお礼申し上げます。