南大西洋・サウスサンドウィッチ諸島で2021年に発生した謎の津波地震の震源過程を解明

筑波大学生命環境系・山岳科学センターの八木勇治 教授・奥脇 亮 助教らの共同研究グループは、南大西洋の英領サウスサンドウィッチ諸島沖合で2021年8月に発生した津波地震の地震波形データを解析し、振る舞いが異なる四つの破壊エピソードで構成される複雑な震源過程を明らかにしました。津波地震の発生メカニズムの理解を深め、被害の軽減にも生かすことができる成果です。

 津波地震は、地上で観測される揺れから予想されるよりも大きな津波を発生させる現象で、発生直後の避難行動が難しくなります。このため、その発生メカニズムや発生リスクを把握しておくことが重要です。例えば、地震の発生場に存在する柔らかい堆積物層の影響で生じる、ゆっくりと一様に進行する断層すべりが津波地震の要因の一つであると解釈されていますが、完全には理解されていません。また、津波地震で観測される地震波形は一様な断層すべりでは説明できないほど複雑な形をしていることがあり、その震源過程の実態は明らかになっていませんでした。

 本研究チームは、南太平洋の英領サウスサンドウィッチ諸島沖合で2021年8月12日に発生した津波地震(モーメントマグニチュード(Mw)8.3~8.5)の地震波形データを解析し、その震源過程を推定しました。

 地震の震源域は海洋プレートの沈み込み帯にあります。解析の結果、この地震は、破壊の振る舞いが異なる四つの破壊エピソードで構成されていることが分かりました。特に、地震の発生から約100秒後に始まった三つ目の破壊エピソードは、45秒もの間ゆっくりとした破壊成長が続き、高速かつ大規模な断層すべりを伴う四つ目の破壊エピソードを誘発する特異な破壊エピソードであったことを見いだしました。また、断層のすべり方向は震源域の北側でプレートの沈み込み方向と近くなる一方で、南側では湾曲したプレートの形状を反映するように回転していることも分かりました。これらにより、280秒もの長い時間継続し、津波地震の特徴を有する地震が発生することとなりました。

 本研究は、方向が変化する高速な破壊伝播とスローな破壊の成長が組み合わさることで、地震の継続時間が長くなるという津波地震の特徴が現れることを示しました。従来の津波地震の発生メカニズムの解釈とは異なる知見で、津波地震の即時同定による被害軽減などに貢献することが期待されます。

論文情報 (オープンアクセスで、どなたでもご覧になれます):
Yamaguchi, R., Yagi, Y., Okuwaki, R., & Enescu, B. (2025). The complex rupture evolution of the long and slow, tsunamigenic 2021 South Sandwich Islands earthquake. Scientific Reports, 15, 17706. https://doi.org/10.1038/s41598-025-02043-6.