種の分布移動推定の新手法によりクロコショウ野生種の歴史を解明
2025.11.5
筑波大学生命環境系・山岳科学センターの津田吉晃准教授、Sandeep Sen元JSPS外国人特別研究員(現・アムステルダム大学)、スイス連邦森林・雪氷・景観研究所WSL、インド・アショカ生態学環境研究トラストATREEなどの共同研究グループは、集団内の遺伝的多様性情報を考慮して種の過去~現在の分布移動を推定する新しい解析手法を開発しました。また、これを用いて、インド・西ガーツ山脈を起源とする、世界で最も価値の高い香辛料であるクロコショウの最終氷期最盛期から現在までの分布移動の歴史を高解像度に明らかにしました。
過去の気候変動は種の分布および遺伝構造形成に大きく影響を与えてきました。これまで、種の分布変遷史は古生態学、植生学、集団遺伝学や系統地理学的手法により評価されており、その手法として、特にこの15年ほどは、種の現在の分布情報と過去~現在の気候変数(気温、降水量など)を用いて種の分布適地を推定する種分布モデルが広く用いられてきました。ただし、このような手法は実際の種の移住や移動などの動的要素が考慮されておらず、また集団遺伝学・系統地理学的解析が併用される場合、種分布モデルとはそれぞれ独立に解析が行われるため、推定の不確実性が課題でした。
今回、本研究グループがこれまでに開発した動的種分布モデルを改変し、集団内の遺伝的多様性情報を解析自体に組み込んだ「遺伝的情報を用いた動的種分布モデル」を開発しました。また、本手法を世界有数の生物多様性ホットスポットであるインド・西ガーツ山脈を起源とする、世界で最も価値の高い香辛料と言われるクロコショウに適用し、本種の最終氷期最盛期(LGM、約21,000年前)から現在までの分布変遷史の推定を行いました。その結果、LGMにおける西ガーツ山脈南部の逃避地およびLGM以降の分布縮小、拡大および分断化について、高解像度に評価することに成功しました。本成果は、希少遺伝資源であるクロコショウ野生種の気候変動下の保全管理策提案だけでなく、さまざまな種に適用可能な新手法として、集団遺伝学、系統地理学、生物地理学、植生学、保全遺伝学、生物資源保全学などに大きく貢献できると考えられます。
論文情報 (オープンアクセスで、どなたでもご覧になれます):
Sen, S., M. P. Nobis, R. M. Saggere, et al. 2025. Direct Integration of Population Genetics and Dynamic Species Distribution Modelling Improves Predictions of Post-Glacial History of Piper nigrum. Diversity and Distributions, 31, no. 9: e70070. https://doi.org/10.1111/ddi.70070.
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