ゲノム情報がナナフシ目およびハサミムシ目内の系統関係を明らかにした!

昆虫は地球上で最も多様化した動物群で、全動物種の約75%を占めています。この昆虫類の進化の歴史の解明には多くの研究者がチャレンジしてきましたが、なかなか昆虫類の進化、類内の系統関係は分かりませんでした。

このような中、1000種類の昆虫のトランスクリプトーム(※1)情報を解析、さらにその解析結果を比較形態学、比較発生学などの多分野から厳密に検証して、昆虫類の系統進化を明らかにしようとする、「1000種昆虫トランスクリプトーム進化 1K Insect Transcriptome Evolution (1KITE)」国際プロジェクトが満を持して立ち上がりました。1KITEは世界13カ国、43研究機関、菅平高原実験所の昆虫比較発生学研究室関係者9名を含む101名の研究者からなっています。

その最初の成果は、Misof et al.(2014:※2) で発表されました。これにより、昆虫の30余目の類縁関係がほぼ明らかになりました。しかし、バッタやゴキブリなどの10目からなる多新翅類内の系統関係に関してはさらなる検証が望まれました。そして数年間の研究が行われ、やっと Wipfler et al. (2019:※3)が多新翅類10目の類縁関係の議論に決着をつけたのです。

次のステップは、多新翅類の各目内の系統関係です。まず、最初に、Evangelista et al. (2019:※4)がゴキブリ目(シロアリ目を含む)内の系統関係を解析しました。そして、今回の Simon et al.(2019)による研究でナナフシ目内について、また、Wipfler et al.(2020)による研究でハサミムシ目内について系統関係の解析、解明がなされました。

今回の二つの研究はそれぞれの目内の系統関係を解明しただけでなく、例えば、Simon et al. (2019) ではナナフシ目が東洋区、新熱帯区のいずれかに起源したことも明らかになり、Wipfler et al. (2020) では、これまでの考えをくつがえして、センヌキハサミムシ科 Apachyidae が最も原始的なハサミムシ類であると結論づけられました。

Simon et al.(2019)

Simon, S., H. Letsch, S. Bank, T. Buckley, A. Donath, S. Liu, R. Machida, K. Meusemann, B. Misof, L. Podsiadlowski, X. Zhuo, B. Wipfler and S. Bradler (2019) Old World and New World Phasmatodea: Phylogenomics resolve the evolutionary history of stick and leaf insects. Frontiers in Ecology and Evolution 7:345, doi: 10.3389/fevo.2019.00345.

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Wipfler et al.(2020)

Wipfler, B., W. Koehler, P. Frandsen, A. Donath, S. Liu, R. Machida, B. Misof, R. Peters, S. Shimizu, X. Zhou and S. Simon (2020) Phylogenomics changes our understanding about earwig evolution. Systematic Entomology, doi: 10.1111/syen.12420.

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ナナフシ目 エダナナフシ(写真 町田龍一郎)

ナナフシ目 エダナナフシ(写真 町田龍一郎)


ハサミムシ目 センヌキハサミムシ(写真 清水将太)

ハサミムシ目 センヌキハサミムシ(写真 清水将太)

※1 細胞内の全DNAの塩基配列情報を指す「ゲノム」に対して、細胞内の全転写産物(すべてのRNA)を「トランスクリプトーム」と呼びます。実際に発現する配列情報が得られるため、トランスクリプトームを解析することで、発現量に差がある遺伝子群を網羅的にしらべることができます。全ゲノム解析に比べ、トランスクリプトームの解析は数分の一のコストですみます。

※2 Phylogenomics resolves the timing and pattern of insect evolution. Science 346 (6210): 763-767; doi: 10.1126/science.1257570/大学webサイトはこちら>> ゲノム情報で昆虫の高次系統関係と分岐年代を解明

※3 Evolutionary history of Polyneoptera and its implications for our understanding of early winged insects. Proceedings of the National Academy f Sciences of the United States of America, 116(8): 3024-3029; doi/10.1073/pnas.1817794116/大学webサイトはこちら>> 有翅昆虫類の系統樹の構築 〜身近なバッタ、カマキリなどからなる多新翅類の祖先型を復元〜

※4 An Integrative phylogenomic approach illuminates the evolutionary history of cockroaches and termites (Blattodea). Proceedings of the Royal Society B (2019) 286: 20182076; doi: org/10.1098/rspb.2018.2076/大学webサイトはこちら>> ゴキブリの起源は意外と新しかった!