お知らせ

神奈川県相模川水系における絶滅危惧種カワアナゴの稚魚による餌資源利用

筑波大学大学院生命環境科学研究科の山川宇宙(生物科学専攻博士後期2年・山岳科学センター菅平高原実験所所属)、筑波大学生命環境系の下田臨海実験センター・今孝悦助教、菅平高原実験所(八ヶ岳演習林兼務)・津田吉晃准教授、茨城大学地球・地域環境共創機構水圏環境フィールドステーションの加納光樹准教授の研究グループは、神奈川県を流れる相模川水系の本流と支流でカワアナゴ Eleotris oxycephala の稚魚による餌資源利用を明らかにしました。

カワアナゴはハゼ亜目カワアナゴ科に属し、日本、韓国、台湾および中国など西部太平洋の温帯域に広く分布しています。成魚は河川で産卵し、孵化した仔魚は海に下り浮遊生活を送った後、稚魚期に河川に加入し成長する、「両側回遊」と呼ばれる生活史をもちます。カワアナゴが生息する河川下流域は護岸工事や河口堰建設、水質汚染などの人為的環境改変の影響を受けており、神奈川県や三重県など国内 11 県において本種は絶滅危惧種に選定されています。本種について適切な保全方策を検討するうえで、食性や生息環境など生態学的な基礎知見が不可欠です。しかしながら、今まで本種の生態学的研究はあまり行われておらず、とくに稚魚期の生態はよくわかっていませんでした。

本研究では、相模川水系の本流と支流でカワアナゴ稚魚の胃内容物や、稚魚と餌生物の炭素・窒素安定同位体比、さらには生息環境中の餌生物の種組成を調べました。その結果、カワアナゴ稚魚が、①魚卵、貝類、カニ類、エビ類、ミズムシ、ユスリカ類幼虫およびトンボ類幼虫といった様々な水生動物を捕食すること、②本流・支流環境中それぞれに多く生息する水生動物(ユスリカ類幼虫とヌマエビ類)をよく捕食していること、③支流では冬季にあまり餌を食べていないが、本流では下水処理水の流入によって高水温でユスリカ類幼虫が多く生息しているためか冬季でもよく餌を食べていることがわかりました。これらのことから、カワアナゴ稚魚は環境中の餌生物の多寡に応じて、餌資源利用を柔軟にシフトしている可能性や、下水処理水による高水温の影響や餌生物相の差異で摂食強度が変わる可能性が示唆されました。こうした情報は、絶滅危惧種であるカワアナゴ稚魚の成育にとって重要な餌場を保全するうえで役に立つと考えられます。

タイトル(日本語):相模川水系における絶滅危惧種カワアナゴ Eleotris oxycephala の稚魚による餌資源利用

タイトル(英文):Food resource use by juveniles of the endangered sleeper Eleotris oxycephala in the Sagami River system, Japan

著者名(和文):山川 宇宙、加納 光樹、津田 吉晃、今 孝悦

著者名(英文):Uchu Yamakawa, Kouki Kanou, Yoshiaki Tsuda and Koetsu Kon

雑誌名:Ichthyological Research

巻数・頁:未定

早期公開版 URL:https://doi.org/10.1007/s10228-020-00795-x

要旨:絶滅危惧種カワアナゴ Eleotris oxycephala の稚魚による餌資源利用を明らかにするため、神奈川県相模川水系の本流(相模川)と支流(千の川)において、2015 年 11 月(冬季)、2016 年5 月(春季)および 2016 年 8 ~ 9 月(夏季)に、稚魚 174 個体の胃内容物組成、稚魚 30 個体と餌生物の炭素・窒素安定同位体比および本流・支流環境中の餌生物の種組成を調べた。稚魚の胃内容物には、魚卵、貝類、カニ類、エビ類、ミズムシ、ユスリカ類幼虫、トンボ類幼虫といった水生動物が認められた。支流では冬季に摂食強度が低くなり、また、年間を通して支流環境中に多く生息するヌマエビ類を主に捕食していた。一方、本流では冬季も含めて年中摂食強度が高く、また、年間を通してユスリカ類幼虫を主に捕食していた。本流には下水処理場からの排水が流入し、冬季でも高水温かつ富栄養で、ユスリカ類幼虫が多く生息していた。ユスリカ類幼虫はヌマエビ類に比べると小さくて動きが遅く、冬季直前に河川に加入した直後の小さいカワアナゴ稚魚にとって捕食しやすい餌生物である。これらのことから、稚魚の摂食強度が冬季に支流と本流で異なるのは、餌環境の差異や下水処理水による高水温の影響と関連付けられた。また、稚魚は餌環境の差異に応じて、餌資源利用を柔軟に変えている可能性も示唆された。したがって、絶滅危惧種カワアナゴを保護するためには、稚魚期の餌資源利用の観点からは、ヌマエビ類やユスリカ類幼虫などの様々な水生動物とその生息環境を保全していくことが必要であると考えられた。

写真:相模川水系のカワアナゴEleotris oxycephala、山川 宇宙撮影
写真:相模川水系のカワアナゴ Eleotris oxycephala、山川 宇宙撮影

Page Top

筑波大学 筑波大学山岳科学センター