長野県植物誌改訂委員会より植物標本2,258点の寄附を受ける

2023年3月、菅平高原実験所は、長野県植物誌改訂委員会上田地区担当(代表 川上美保子さん)より植物標本2,258点の寄附を受けました。

今回の標本は、川上さんらのグループが長野県植物誌改訂版作成の調査のために作製したもので、当施設での研究・教育にも役立ててほしいと寄附いただきました。同グループからは昨年までに約6,500点の植物標本を寄附いただいており、それらは当施設での研究活動に使用されているほか、順次国立科学博物館による事業S-Net(サイエンスミュージアムネット)を通じてGBIF(地球規模生物多様性情報機構:Global Biodiversity Information Facility)へデータ提供し、国内外で標本情報の利用が可能となっています。

また、昨年当施設では「みんなの標本庫」計画を立ち上げ、地域の生物情報が集約した標本庫を生涯学習の場として活用する取り組みを開始しました(ページ下部「今後の展開」参照)。コロナ禍を受け昨年は参加者を限られた人数としましたが、一般の方々に標本の扱い方を説明し、これまでに寄附された植物標本について共に学びながら整理を進めています。

今回の2,258点の標本は丁寧に作製された極めて学術的価値の高いものであり、これまでと同様に大切に保存していきます。それと同時に、研究者だけではなく一般の方もそれらを利活用できるよう標本庫を整備し、誰もが気軽に利用できる地域に根差した宝として標本庫を成長させていきたいと考えています。

今回寄附いただいた標本は、全てこのように丁寧に作製されている。
寄附の背景

山国長野県は豊かな自然に恵まれていますが、身の回りにどんな生き物が生息しているのかについて、実態を明らかにし、把握することは重要です。1997年に刊行された「長野県植物誌」の改訂版を作成するべく、2017年より、長野県植物誌改訂委員会および有志の市民によって、県内各地で改訂のためのフロラ(植物相)調査が進められています。今回の改訂は2027年を目標としており、県内における絶滅危惧種の現状や、外来種の増加などを認識するために大いに役立つと考えられます。

フロラの実態を解明して把握するには、伝聞や写真記録だけではなく、実際にそこにその植物が生育していたという証拠標本(学術的にはバウチャーと称されます)を保存することが極めて重要です。それによって後から分類学的に検討したり、DNA情報を解析し様々な情報を得たりすることが可能となるためです。今回、長野県植物誌改訂委員会上田地区担当メンバーらより寄附を受けた2,258点の標本は、非常に丁寧に作製されていることに加え、専門家によって種同定されたバウチャー標本となっており、学術的価値も極めて高いものであるといえます。

今後の展開

筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所は、開設以来89年間の教育研究活動を通じて、長野県東信地域の自然史に関する情報の集積、発信に努めてきました。東信地域には核となる自然系の博物館が少ないことから、地域に根差した博物館としての機能を担うことを目指して、現在「フィールドICTミュージアム構想」を進めています。「みんなの標本庫」はその構想の一つであり、標本庫を地域の生物情報が集約した場として維持しつつ、一般の方の生涯学習の場として活用することを目指したものです。

関連ページ>> 一般市民との協働による地域資源を活用した生涯学習の場「みんなの標本庫」基盤開発(つくばリポジトリ 筑波大学技術報告No.41)

「フィールドICTミュージアム構想」では、今回の寄附を含めた当施設が保管する約17,000点の標本試料をはじめ、生物多様性学、生態学、気象学、土壌学など、山岳を対象とした自然科学に関するデータを集約し、オンラインによる公開や、生涯教育への還元といった社会貢献活動への展開を今後も検討しています。

前回の寄附についてはこちら>> 長野県植物誌改訂委員会より植物標本2,664点の寄附を受ける

S-Netについてはこちら>> サイエンスミュージアムネット(国立科学博物館)

【2023.4.14追記】この件については下記のメディアで報道されました。

上田ケーブルビジョン「UCVレポート」>> 筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所に2,000点を超える植物標本の寄付(2023年4月12日放送)

信濃毎日新聞東信版「上小地域の植物標本 展示へ」(2023年4月14日掲載)