トルコ・シリア大地震では複雑な断層ネットワークが階層的な地震破壊成長を駆動した

筑波大学生命環境系・山岳科学センターの奥脇 亮 助教らの国際共同研究グループは、今年2月にトルコ・シリアで甚大な被害をもたらした双子地震の震源過程を詳細に解析し、曲がりや段差、枝分かれを持つ複雑な断層のネットワークが、破壊伝播速度や破壊進行方向を制御し、小さな破壊イベントから大きな破壊イベントへの階層的な破壊成長をもたらしたことを明らかにしました。

2023年2月6日、シリアとの国境に近いトルコ南東部で、モーメントマグニチュード7.9と7.6の大地震が相次いで発生しました。二つの大地震は時間・空間的に近接しており、双子とも言える地震です。強い揺れによる建物の崩壊などにより、多くの犠牲者を含む甚大な被害が発生しました。二つの地震の震源域は複数のプレート境界付近に位置しており、この地域では曲がりや段差、枝分かれを持つ幾何的に複雑な断層ネットワークが形成されています。こうした断層ネットワークが、実際の地震の破壊成長をどのように促し、また、どのように停止させるかといったメカニズムについては、明らかにされていませんでした。

本研究では、2023年トルコ・シリア双子地震の震源過程を解析し、複雑な断層ネットワークを介して破壊が階層的に成長する様子を明らかにしました。特に一つ目の地震破壊は、主断層から鋭角に枝分かれする小さな断層破壊から、主断層における大きな断層破壊へと破壊成長がスケールアップする過程で、見かけ上、破壊進行方向をブーメランのように変えながら逆伝播していることが分かりました。また、二つの地震破壊に共通して、部分的に超せん断速度で破壊成長してゆく様子も明らかになりました。さらに二つ目の地震においては、断層の曲がりが高速の破壊成長をもたらした一方、その破壊を急激に停止させたことも分かりました。

本研究により、幾何的に複雑な断層ネットワークが、地震の規模や破壊伝播速度及び破壊進行方向を制御したことが分かりました。また、断層ネットワークで小さな領域の破壊イベントから大きな破壊イベントへの階層的な破壊成長を促進するプロセスも明らかになりました。断層幾何による階層的な破壊成長や、それに伴う破壊の逆伝播といった新たな発見は、地震発生の理解を深め、地震による被害リスクを評価する上で重要なシナリオを与えます。

*さらに詳しい情報は 筑波大学プレスリリース をご覧ください。

*論文情報: Okuwaki, R., Yagi, Y., Taymaz, T., & Hicks, S. P. (2023). Multi-scale rupture growth with alternating directions in a complex fault network during the 2023 south-eastern Türkiye and Syria earthquake doublet. Geophysical Research Letters, 50, e2023GL103480. https://doi.org/10.1029/2023GL103480